カルピス本社勤務のタイ人女性、夢は「ビジネスで日本とタイをつなぐこと」

独立の夢を語るチャイアリギさん独立の夢を語るチャイアリギさん

「脱欧入亜」――東南アジアの人たちはいまや、日本の労働市場の一端を担うまでになった。この不定期連載では、東南アジアから日本に渡り、東京近辺で働く若者を紹介し、日本から“近くて遠い国”と揶揄(やゆ)される東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々との関係を見つめ直したい。

「日本とタイの懸け橋になりたい」。日本語で滑らかに話すニーラシャ・チャイアリギさん(28)は、飲料大手カルピスの海外事業部で働く、バリバリのオフィスワーカー。タイやマレーシアなど、海外の現地法人や工場と連絡を取り、経営上のサポートを担当する。6年前に来日し、同社で2013年9月から働き始めた。

タイの最低賃金は1日300バーツ(約1000円)。1カ月に25日働いても2万5000円にしかならない。チャイアリギさんは現在、その10倍以上の給料を稼ぐ。

「タイでは誰でも、いつでも働けます。でも、(日本人と同じ土俵で)日本で働けるタイ人はほとんどいません。たぶん全体の5~10%くらいじゃないでしょうか。日本で働いてみて、良いことや苦手なこともありますが、今までの努力が台無しにならないように、頑張っていきたいです」

将来の夢を聞くと、「日本かタイで独立して事業をやってみたいです」とはにかんだ。「タイの大学で学んだ経営学のノウハウを生かし、語学か旅行関係のビジネスをしてみたいです。日本とタイをつなぐ懸け橋になれたらいいなと思っています」

チャイアリギさんは、バンコクのマヒドン大学を卒業した後、川崎市の日本語学校と東京・中野の国際短期大学の国際コミュニケーション学科にそれぞれ2年通った。国際交流基金と日本国際教育支援協会が実施する日本語能力試験の1級に合格、ビジネスで通用する日本語を身につけた。

チャイアリギさんは「学生時代は、日本で働くなんて考えたこともありませんでした」と打ち明ける。日本で働くきっかけは、バンコクの大学に在学中、偶然受かった日本への1カ月の留学プログラムだった。

「日本語がほとんど理解できず、東京・板橋区のホストファミリーとのコミュニケーションに苦労しました。タイに帰国して、親切に接してくれたお母さんに国際電話をしたのですが、まったく話が通じませんでした。だから、日本語を勉強しようと決めました」

日本で働き始めた頃は、電話の対応に苦労した。取引先の社名や人名を聞き取れなかったり、相手の話すスピードについていけず、内容をうまく理解できなかったりした。価値観の違いにも困惑した。「タイでは家族のことが最優先です。でも日本では家族のことよりも仕事を優先させます」。異国の地での労働は苦労の連続だった。

休みの日は、「日本人の考えをタイ人に知ってもらいたい」という目的で、街中を歩く日本人にインタビューをしている。2013年11月から日本で働くタイ人の友人らと一緒に活動を始めた。ビデオカメラでインタビューの様子を撮影、タイ語の字幕を付けて動画共有サイト「ユーチューブ」にアップしている。

これまでに「日本人の交際に関する考え方」などをテーマとして取り上げた。「日本人は相手をもてなす気持ちに溢れていると思います。もっとタイ人に日本のことを知ってほしいです」(篠塚辰徳)

2013年は、日本とASEANの交流40周年という節目の年だった。厚生労働省によると、2012年10月の時点で、外国人労働者数は64万9982人。1993年の9万6528人から、約7倍に激増したことになる。国別では、中国、韓国、フィリピン、ベトナムなどアジア勢が目立つ。

近年は、「脱欧入亜」という言葉が広まり、ビジネスでも政治でもアジアを重視する見方も強まっている。一方で、2004年の世論調査(内閣府、回答者2075人)では、「外国人労働者が増加していると感じるか」との質問に、45.6%が「ほとんど感じない」「あまり感じない」と答えた。外国人労働者に対する日本人の意識の低さがうかがえる。