国王を批判するタイの若者たち、タブーを破り目指すは「王室改革」

普段のバンコクのようす。写真は、日本の無償資金援助で1992年に完成したラマ4世通りにかかる「ラマ4世橋」(日タイ橋)普段のバンコクのようす。写真は、日本の無償資金援助で1992年に完成したラマ4世通りにかかる「ラマ4世橋」(日タイ橋)

先端技術安全保障研究所の石栗宏貴理事は、「第 3 回東南アジアの地政学 2021」と題するセミナー(主催:KeyNoters)で、タイ王室をめぐる市民の動きについて講演した。2020年から続く民主化を求める今回のデモについて「初めはプラユット政権を批判していたが、次第に王室批判する若者が現れた。王室に対してタイの若者はいま、不敬罪の廃止など『10項目の要求』を受け入れるよう、デモで訴えている」と述べた。 

反政府活動家がカンボジアで拉致

学生たちがデモを始めるきっかけとなったのは、民主主義を後退させるプラユット政権の行動だ。

タイの憲法裁判所は2020年2月、反軍政を掲げ、大学生らから熱烈な支持を受けてきた「新未来党」に対し、違法組織として解党命令を出した。

これについて石栗氏は「憲法裁判所の命令には、軍や保守派で第1党の『国民国家の力党』の影響があった。これを受けてタイの若者たちの間では、タイの政治が軍政の思い通りになってしまうのではないか、と危機感が強まった」と説明する。 

デモが広がったのは 2020 年 6 月からだ。政府を批判するタイ人活動家の ワンチャルーム・サッサクシット氏がカンボジアの首都プノンペンで拉致された。黒塗りの車に引きずり込まれる姿をとらえた映像を人権団体ヒューマン・ ライツ・ウォッチ(HRW)が公開。それがSNSで拡散された。 

石栗氏は「タイの権力者はいまも、外国で工作員を使い、影響力のある活動家を拉致している。国家としてどうなのか、という疑念が反政府デモを大きくしたのではないか」と分析する。 

HRWによれば、反政府運動や民主化にかかわるタイ人活動家は2014年以降少なくとも9人がラオスやカンボジア、ベトナムへ逃げ、その後行方不明になっているという。

タイ国王は品格がない?

今回の民主化のデモは王室批判にも飛び火した。

石栗氏によると、王室批判の火付け役となったのは、人権派弁護士として有名なアノン・ナムパ氏(36歳)だ。タブー視されてきた王室の問題点について2020年8月、学生らが開催する反政府集会で演説。「国王は憲法の下になければならない(国王は超越した存在ではない)」と訴えた。同氏は扇動罪の容疑で逮捕された。 

アノン氏が王室を批判した内容について石栗氏はこう分析する。

アノン氏は、王室の君主としての『品格と責任』を追及した。その例として挙げたのが、国王に多大な権力が与えられていること、君主であるにもかかわらずドイツに長期滞在していること、国家が管理していた国王の財産を国王の私有財産に変更したことなどだ

アノン氏はその後釈放されたが、これまでに、王室への誹謗中傷を罰する不敬罪などで捕まったタイ人を数多く弁護してきた経験をもつ。

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