人間の行動心理を開発に生かせ! 世銀が「世界開発報告2015:心・社会・行動」

人間の行動心理を理解し、開発政策に活用を――。世界銀行は2014年12月、「世界開発報告(WDR)2015:心・社会・行動」を発表。このなかで、人間の心理的・社会的要因が開発の成果にどう影響を与えるかを検証した。世銀グループのジム・ヨン・キム総裁は「個人がどうやって(物事を)選択するかがわかれば、貧困層や脆弱層のためのプログラムをより効果的に実施できるようになる」と期待を込める。

報告書によると、人は必ずしも、自己本位の計算に基づき、周到で独立した判断を下すわけではない。むしろ短絡的に考え、固定観念や思い付きで決断するケースがほとんどだ。わかりやすくいえば、他人が協力するなら自分も協力するといった具合で、誰もが「社会」の影響を受けている。意思決定には「自動的な思考」「社会の影響を受けた思考」「メンタル・モデルによる思考」という3原則がある。

社会の影響以外にも、開発政策を進めるうえではタイミングもカギとなると報告書は指摘する。たとえばコロンビアでは、現金給付プログラムの仕組みを変更。給付金の一部を自動積み立てにし、子どもの就学を親が決断したと確認されたら、積立金を翌年、一括して受け取れるようにしたところ、就学率が向上した。

報告書はまた、貧困は知能指数(IQ)にも影響を及ぼすとしている。インドのサトウキビ農家を対象に、収穫した作物の売上金が入る前と後で認知テストを実施した結果、収穫後の方が前より良い結果が出た。その差はIQにして約10ポイントにも相当したという。

「政策担当者は、人々が精神的に余裕のない時期を避けて重要な決定を促すタイミングを設定すべき。貧しい農家に子どもの就学についての決断を求めるのは、収入が入って比較的潤っている時期にずらすと良い」(報告書)

報告書はこのほか、革新的アプローチの成功例をいくつか紹介している。そのひとつはケニアの事例だ。バス運転手の危険な運転に苦情を申し立てるよう乗客に呼びかけるビラを車内に貼ったところ、傷害や死亡などの保険金請求が半減したという。社会規範の改善という効果をもたらした。

同じくケニアで、医薬品管理に問題があり、在庫切れが頻繁に起きる問題を解消しようと、医薬品を保管する鍵付きキャビネットを記録簿とともに各コミュニティに設置した。薬を確実に入手できるようにしたのが狙いだ。この結果、医薬品の購入費用を貯めるだけでなく、人々の貯蓄も増えたという。医薬品の購入額も最大75%増えた。

社会的インセンティブの付与も、想像以上の効果につながることがある。南米コロンビアの首都ボゴタで、極端な水不足の時期に節水に協力した住民の名前を公表したところ、市全体の節水につながった。

娯楽を通じた教育の効果も見逃せない。南アフリカでは、家計管理能力の重要性を伝えるテレビ番組「Scandal!」のおかげで、賭博行為の割合が減少。視聴者の家計を管理する能力が改善した。