労働時間は1日21時間! オマーンとUAEでタンザニア人家事労働者の人権侵害が相次ぐワケ

ヒューマン・ライツ・ウォッチが発表した報告書「『ロボットのように働いています』:オマーンとアラブ首長国連邦で人権侵害に直面するタンザニア人家事労働者たち」の表紙(同団体のホームページから引用)ヒューマン・ライツ・ウォッチが発表した報告書「『ロボットのように働いています』:オマーンとアラブ首長国連邦で人権侵害に直面するタンザニア人家事労働者たち」の表紙(同団体のホームページから引用)

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)はこのほど、報告書「『ロボットのように働いています』:オマーンとアラブ首長国連邦で人権侵害に直面するタンザニア人家事労働者たち」を発表した。この報告書は、オマーンとアラブ首長国連邦(UAE)で、タンザニア人の女性家事労働者が過度の長時間労働や給与の未払い、性的虐待など人権侵害の被害にあっていることを指摘。外国人家事労働者の身元引受制度(カファラ制度)、両国とタンザニア政府の不十分な海外家事労働者の保護制度が被害の原因となっていることを明らかにした。

オマーンやUAEでは、外国人が家事労働者として働く場合、身元引受人(雇用者)のもとで働く。雇用者の許可がなければ、転職や出国も自由にできない。これを「カファラ制度」と呼ぶ。

人身売買の温床ともいわれるカファラ制度の特徴は、雇用主の権利が極端に強いことだ。このため家事労働者が離職する条件やあっせん料として給与を没収されることもある。帰国費用として数カ月間ただ働きさせられるケースも少なくない。

今回の報告書を発表する際にHRWは、オマーンやUAEで家事労働者として働いていたタンザニア人女性50人に聞き取り調査をした。これによると、50人のうちほとんどが過度の長時間労働を強制され、給与も約束された金額より少ないか、全くない場合が多かった。また、雇用主とあっせん業者にパスポートを没収されていたため、過酷な労働環境にあっても国外に脱出できなかったという。

21歳のバスマさん(仮名)は1日最長で21時間働かされた。身体的虐待も受けた。雇用主の兄弟に2度レイプされそうになった。窮状に耐えかねて逃げ出したところ、雇用主のあっせん費用を返していなかったことから逮捕されたうえ、3カ月分の給与を返上しなければならなかったという。「ようやくタンザニアに戻った時の私の状態は、金銭的、身体的、感情的すべての面で、タンザニアにいた時よりも悪くなっていた」と話す。

女性家事労働者への迫害がひどいのは、カファラ制度だけが要因ではない。それぞれの国で家事労働者を保護する政策が整備されていないことも大きい。オマーンでは、海外からの家事労働者は労働法の保護対象から外れている。雇用者への罰則がないのが実情だ。

UAEでは2017年に、海外からの家事労働者も労働法の保護対象に含まれることになった。だがその内容をみると、あっせん業者を取り締まるもので、雇用主に対する法的措置は不十分なまま。労働者を送り出す側であるタンザニアの労働省も、あっせん業者の違反行為があっても立ち入り調査や、罰則を科すことはない。

労働者の人権を守るためにもHRWは、カファラ制度は廃止すべきとのスタンスをとる。同団体のロスナ・ベグム中東女性権利担当調査員は「タンザニア、オマーン、UAEはともに協力して家事労働者の搾取を阻止するために人権侵害があったかどうかを捜査し、加害者を訴追すべきだ」と訴える。

オマーンやUAEを含む湾岸諸国に滞在する家事労働者は、多くがインドネシア・フィリピン・インド・スリランカ出身のアジア人だ。アジア諸国の一部はすでに、湾岸諸国への家事労働者のあっせんを全面禁止にした。このためあっせん業者は、保護対策がまだ不十分な東アフリカ出身の家事労働者に目を付けているという。