「国連人権理事会」の特別報告者、原発事故への日本政府の対応に“厳しい評価”

「健康を享受する権利に関する国連人権理事会」特別報告者のアナンド・グローバー氏は11月26日、健康を享受する権利の観点から、昨年3月から続く原子力発電所事故への日本政府の対応についての考察をプレス・ステートメントとして発表した。

グローバー氏は、健康を享受する権利の実現について、国連人権理事会と国連総会に報告・勧告する独立専門家。11月15~26日、被災地などを視察した。以下、発表の抜粋。

・原発事故が発生した場合の「災害管理計画」について近隣住民が把握していなかったのは残念なこと。福島県双葉町の住民らは、1991年に締結された安全協定により、原発は安全で、事故が発生するはずはないと信じていた。

・独立した立場からの原発の調査、モニタリングの実施を目指し、「原子力規制委員会」を設立した日本政府は賞賛に値する。

・原発事故の直後には、甲状腺ガンのリスクを低減するために、被ばくした近隣住民に安定ヨウ素剤を配布するのが常套手段。ところが日本政府は、安定ヨウ素剤に関する指示を出さず、配布しなかった(一部の市町村は独自に安定ヨウ素剤を配布した)。

・政府が正確な情報を提供して、住民を汚染地域から避難させることが極めて重要。だがSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による放射線量の情報と放射性プルームの動きが直ちに公表されることはなかった。

・避難対象区域は、実際の放射線量ではなく、災害現場からの距離と放射性プルームの到達範囲に基づいて設定され、当初の避難区域はホットスポットを無視したものだった。

・日本政府は、避難区域の指定に年間20mSvという基準値を使用したが(年間20 mSv までの実効線量は安全という形で伝えられた)、チェルノブイリ事故の際、強制移住の基準値は、土壌汚染レベルとは別に、年間5mSv以上だった。

・政府刊行物には「年間100mSv以下の放射線被ばくが、がんに直接的につながるリスクであることを示す明確な証拠はない」と書かれたが、多くの疫学研究では、年間100mSvを下回る低線量放射線でもがんやその他の疾患が発生する可能性があるとされている。

・健康を享受する権利に照らして、日本政府はすでに「健康管理調査」を実施している。ただ対象は、福島県民と災害発生時に福島県を訪れていた人に限られている。健康調査を放射線汚染区域全体で実施することを日本政府に要請する。

・健康管理調査は、子どもを対象とした甲状腺検査、全体的な健康診査、メンタル面や生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査に限られている。調査範囲が狭い。

・原発作業員の放射線による影響のモニタリングについても、政府は注意を払う必要がある。一部の作業員は、極めて高濃度の放射線に被ばくしたが、短期雇用の下請け労働者も多く、長期的な健康モニタリングは行われていない。

・食品の放射線汚染について、日本政府が食品安全基準値を1kgあたり500Bqから100Bqに引き下げたことは称賛に値する。ただ国民はこの基準の導入について不安を募らせている。

・土壌汚染への対応として日本政府は、汚染レベルが年間20mSv未満の地域の放射線レベルは同1mSvに、また同20~50mSvの地域については2013年末までに同20 mSv未満に引き下げる、との目標を掲げている。ただ、いつまでに年間1mSvまで引き下げるのか、具体的なスケジュールが決まっていない。

・日本政府は東京電力の株式を保有しているが、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければならない。

今回の発表は予備的考察の一部。詳細は、2013年6月の国連人権理事会への最終報告で明らかになる。