【セネガル協力隊がゆく(2)】フランス在住のセネガル人は8万人、「幸せ?」と聞いてみた

0124セネガル(2)の写真IMG_4747トゥーロンからイェールに向かうバスの中で知り合ったセネガル人の出稼ぎ労働者と話す筆者(右)。彼は失業中だった

■警備員・掃除夫・マクドナルド店員

青年海外協力隊の「任国外旅行」という制度を利用して、フランスに行ったときのこと、ウォロフ語(私の任国セネガルで使われる言葉)が聞こえてきた。パリの空港、ニースのスーパーマーケット、トゥーロンではバスの車内‥‥。2週間ちょっとのフランス滞在で、私は8人のセネガル人と出会った。

「フランスでいったい何をしているの?」。興味津々だった私は思わず、初対面のセネガル人にウォロフ語で話しかけてみた。

ニースのスーパーで会った20代の女性は「フランスの大学で勉強しているのよ」と胸を張った。一緒にいた同じく20代の男性2人は、サッカーを観戦するために遊びにやってきたという。金持ちのセネガル人は、協力隊の活動で私が付き合うセネガル人とは別世界の住人だな、と私は思った。

だが同じスーパーで、中年のセネガル人男性が警備員として入口の脇に立っていた。これ以外にも、掃除夫やマクドナルドの店員として働くセネガル人を私は見た。

なぜか私は、フランスへ出稼ぎにきたセネガル人たちのことが妙に気にかかった。私自身もいまは日本を離れ、セネガルで生活しているから、無意識のうちに自分の環境と重ね合わせているのかもしれない。きっと、母国で味わうことのなかった「孤独感」や「差別」に悩んでいるのではないか、と想像した。

■フランスからの送金額は月2万円

国連女性調査訓練研修所(UN INSTRAW)によると、旧宗主国のフランスには約8万人のセネガル人が暮らしているという。このうち何人が出稼ぎ目的かは不明。だが多くは出稼ぎ労働者だろう。セネガルでも「親せきがフランスで働いている」とはよく耳にする話だ。

セネガルの1人当たりの年間所得は2009年の平均で、日本の外務省の資料によれば1040ドル(約9万5000円)しかない。1カ月に換算すると1万円以下。セネガルでは小学校の教師でも月給は10万CFAフラン(約2万円)ほどだ。

フランスに渡った出稼ぎ労働者の平均所得はわからない。ただUN INSTRAWの資料には、フランス在住のセネガル人の本国への平均送金額は、1カ月当たり13万7500~15万6300CFAフラン(約2万1000~約2万4000円)と書かれている。フランスの送金額がセネガルの収入を上回っている。

セネガルの家族は、このお金を、食べ物やさまざまな儀式、保健医療、住宅費に使う。出稼ぎ労働者が、セネガルの家族の生活を支えているのは紛れもない事実だ。

■「出稼ぎに来たのに仕事がない」

私は頭の中にふと疑問が浮かんだ。出稼ぎ労働者たちは幸せなのだろうか。

バスの車内で知り合った男性は私に嘆いた。「出稼ぎに来たのに、仕事がない。稼ぎがないから、セネガルにいつ帰れるかもわからない。家族が恋しい‥‥」

彼はおそらく、トゥーロンのセネガル人コミュニティに助けられて暮らしている。こうした実情を知らずにセネガルで待つ家族は、彼の稼ぎに大きな期待を寄せているのだろう。想像するだけで、私の胸は痛んだ。

セネガルでお金を稼ぐのは厳しい。そのせいか、私の周りにも、外国に行って“大金”を稼ぐことを夢見るセネガル人は少なくない。「日本に連れていって!」と何度言われたことか。

私は、フランス帰りの元出稼ぎ労働者に尋ねてみた。「セネガルのダーラ(私の任地)とフランス、どっちが好き?」。すると彼は「フランスは人種差別もあるから、ダーラだよ」と明快に答えた。

言葉も文化も違う異国の地。家族と会えない孤独。そして人種差別。仕事にだってありつける保証はない。フランスで私は、出稼ぎ労働者の心の奥を垣間見た気がした。(セネガル=青年海外協力隊・藤本めぐみ)