TICAD Vでアフリカを考えよう、「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長に聞く

「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長

2013年6月に横浜市で開催される第5回アフリカ開発会議(TICAD V )。開発の指針「ミレニアム開発目標」(MDGs)の目標年である2015年が2年後に迫るなか、アフリカに対する開発援助のあり方に注目が集まっている。途上国の貧困解決に取り組むNGOのネットワーク組織「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長にお話を伺った。(聞き手=寺本愛)

■資源依存の成長から脱却できるか

――TICAD Vのテーマについて教えてください。

「日本政府などTICAD共催団体が設定しているテーマは『質の高い成長への変革』です。アフリカはこのところ高い経済成長率を誇っていますが、その中身は、先進国や新興国による資源需要の増加に引っ張られたものです。アフリカ自身による内発的な発展とはまだいえません。経済の質を変化させ、アフリカ自身の力でいかに成長できるようにするかを考えていく必要があります」

――TICADでは、質の高い成長への変革にとって何が必要といわれていますか。

「TICAD共催団体は、そのために3つのことが必要だと言っています。1つは『持続的で強固な経済』。域内外の需要をうまくマッチさせ、アフリカ諸国が自立的に成長できる体制が必要です。2つめは『強靭で包摂的な社会』。洪水など負のインパクトがあってもすぐに立ち直れるように、また開発は、だれもが参加でき、だれもがその恩恵にあずかれるようインクルーシブでなければなりません。

3つめは『平和と安定』です。2013年1月に日本人の犠牲者を出したアルジェリアのテロ事件がありましたが、やはり、持続可能な経済、包摂的な社会の前提に『平和と安定』がありますからね」

■アフリカと日本に姉妹都市はない

――TICADでNGOが求められる役割は何ですか。

「TICADは、市民社会の参加が一定で進んだとはいっても、まだ、第一に政府や国際機関中心の会議であり、第二に、民間企業のアフリカ進出を促す機会という位置づけです。市民社会が積極的にTICADの枠組みに参加できる状況になったとは必ずしも言えません。

TICAD Vで決まった目標や行動指針を達成するためには、日本とアフリカのNGOも行動を起こせるようにしなければなりません。市民社会が、会議だけでなく、TICADプロセスに積極的に参加する事ができるようになれば、TICADのアフリカ開発のためのイニシアティブとして、もっと厚みと深みを持ったものになります」

――TICAD以外では、市民社会にはどんな役割が求められていますか。

「まずは知的対話の促進です。日本の地域研究は非常にレベルが高いのですが、産・官・学・民の連携ができておらず、研究成果を十分に生かせていません。それぞれをつなげ、相乗効果を見出すことがNGOに求められる大きな役割です。

もう1つは文化交流の促進。文学、音楽、ダンスなど、それぞれの枠の中ではアフリカと日本で交流はあっても、異なる分野をまたぐ交流はあまり見られない。また日本の自治体で、アフリカの都市と姉妹都市になっているところはありません。そういったレベルでも交流を促していきたいですね」

■人口増を「成長」につなげるのが課題

――2015年以降の開発目標をどうするか、いわゆる「ポストMDGs」についてはどんな議論が進んでいるのでしょうか。

「いまはMDGsの見直しが進められています。2000年にMDGsができたおかげで、アフリカの僻地でもヘルスワーカーが活動し、HIV・エイズの薬が行き渡り、また学校も建てられました。その良い変化を今後どう継続させるか。もっといえば自力でできるよう、いかに行動の主体をアフリカ諸国にトランスファーさせるかがポストMDGsの基本となる考え方です」

――ポストMDGsを考える際のポイントはどういったことでしょうか。

「世界的にみるとポイントは2つ。1つは、国際社会の共通認識を醸成すること。MDGsが作られた当時の状況との大きな違いとして、中国やブラジルなどの新興ドナーの台頭があります。

アフリカの開発や貧困の問題など、地球規模の課題に、国際社会は共有された責任をもっています。いま問題になっているのは、その『共有の仕方』です。かつては『先進国と途上国』という枠組みで考えればよかったのですが、いまは『先進国・新興国・途上国』という枠組みを前提に考える必要があります。その共有の仕方を変えるべきかどうか、また変えるならどう変えるべきなのかが問われているのです。

もう1つはグローバリズムとの関係です。格差は、アフリカの中でもどんどん大きくなっています。富の再配分をどうするのか、どんな経済システムをつくっていくかが重要ですね」

――アフリカ特有のポイントはありますか。

「大きく分けて2つあります。1つは人口増加への対応です。アフリカ以外の地域では、人口増が資本主義のフロンティアを形成し、経済成長につながっていきましたが、アフリカではどうかといえば、必ずしもそうなるとはいえません。脆弱性が高い状況が続いているからです。人口増をアフリカ開発にとってのメリットとしていくには、アフリカ側にも、国際社会にも、中長期にわたるしっかりしたビジョンが必要です。

もう1つは気候変動などに起因する災害への対応です。強靭性(レジリエンス)を高め、防災都市としての機能を充実させる必要があります。ただこれは、スラムを解体するといったケースも出てくることから、貧しい人たちの利益と反することもあります。どう折り合いをつけていくかが課題です」

■日本の若者にアフリカを見てほしい

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

「アフリカは本当に魅力的な場所です。日本が変わるため、という意味でもアフリカを知ることはとても重要だと思います。過去や今のアフリカの問題や今後のアフリカを考えることが、自己認識を変え、日本の問題にどう対処するかの参考にもなるのです。

TICAD Vを機会にぜひ、特に日本の若者に、アフリカに興味をもってほしいです。できれば現地に行って、魅力を知り、そこにある問題を把握し、同じ地球で生きているんだと感じてもらいたいですね」