日本政府主導でアフリカの発展について話しあう「第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)」が8月28日、「ナイロビ宣言」の採択をもって閉幕した。アフリカの産業発展や社会の安定化などに向けた努力を明記した成果文書だが、NGO「市民ネットワーク for TICAD」の世話人を務める稲場雅紀氏は「ナイロビ宣言には明確なターゲットが記されていない」と問題点を指摘する。
――TICAD VIで採択されたナイロビ宣言についてどう思うか。
「まず良い点として、ナイロビ宣言にはきちんとした実施計画がある。ただ、『誰に対して何年までに』といった明確なターゲットが記されていない。実行性には大いに疑問が残る。
また、NGOの貢献が期待される分野で、ナイロビ宣言を実行するアクターからNGOが抜け落ちていることも問題だ。例えば社会を安定させるには、アフリカ各国政府のガバナンス(統治)を監視する必要があるが、政府や企業にはできないことだ」
――TICAD VIに対するNGOの評価は。
「TICAD VIには、大きく分けて3つのテーマがあった。『産業開発』、『強じんな保健システムの実現』、『社会の安定化』だ。これらについてNGOを代表して意見を述べたい。
第一の産業の多角化について、安倍首相は8月27日の基調演説で『日アフリカ官民経済フォーラム』の創設を打ち出した。だが日本政府がアフリカの発展より日本企業の進出を優先していることは否めない。本来は『日本企業がアフリカの発展にどうかかわるか』という視点で議論されるべきだ。
安倍首相はまた、演説で『アフリカの300万世帯に2022年までに地熱発電で作った電気を届ける』とも述べたが、実行計画が備わっていない。『アフリカに対し、今後3年間で官民あわせて3兆円規模の投資を行う』との発表も、3兆円の具体的な使い道は示されていない。民間資金は増減する可能性があり、3兆円の投資の実行は困難ではないか」
――強じんな保健システムの実現については。
「安倍首相が8月26日午後、ケニア保健省と世界銀行の共催イベント『UHC イン・アフリカ』で、『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC=すべての人が適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられること)の実現に向けて積極的に貢献する』と表明したことは歓迎する。だがUHCを実現するために具体的に何をするのかは明らかにされていない。資金をどうするかも約束されていない。実行性に疑問が残る」
――社会の安定化はどうか。
「社会を安定させるには、アフリカ各国政府のガバナンス強化や透明性の確保が不可欠だ。ところが、日本政府はアフリカ各国政府のガバナンスの強化に強く言及していない。アフリカ連合(AU)が2013年に採択したアジェンダ2063は『アフリカにとって良いガバナンスを追求する』と明記する。TICADのテーマである『アフリカのオーナーシップ(参画意識)を尊重する』のであれば、アジェンダ2063のようなアフリカの自助努力を日本政府は支援すべきではないか」
――NGOと政府の距離は縮まったか。
「TICAD VIの会期中、市民ネットワーク for TICADはアフリカのNGO『アフリカ市民協議会(CCfA)』と合同でサイドイベントを開催した。このイベントには安倍昭恵首相夫人やアフリカ連合委員会(AUC)のエラスタス・ムウェンチャ副議長が出席するなど、ハイレベルなものとなった。アフリカのNGOだけではなく、日本・アフリカ各国の両政府との関係も深まったと考えている」
――次回のTICADは3年後、日本で開催されるが。
「第7回アフリカ開発会議(TICAD VII)が開催される2019年は東京オリンピックの前年で、また国連総会が持続可能な開発目標(SDGs)のフォローアップを目的とするハイレベル政治フォーラム(HLPF)を開催する年でもある。NGOとしては3年後のTICAD VIIに向けて、TICAD VIの成果と課題を発信し続けたい」