インドネシアで宗教マイノリティへの暴力増加、ヒューマン・ライツ・ウォッチが警告

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「ベルトや服をナタで切られ、パンツだけにされた。250万ルピア(約2万5000円)とブラックベリー(携帯電話)を奪われた。パンツを脱がせ、ペニスまで切ろうとした。胎児のような格好で倒れたら、左目を刺された」

インドネシアで、宗教マイノリティへの差別が増大している。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2月28日、報告書「宗教の名における暴力:インドネシアの宗教的少数派への人権侵害」を発表し、宗教マイノリティの宗教施設を放火したり、信者を襲う事件が相次いでいる事実を明らかにした。攻撃のターゲットとなっているのは、アフマディーヤ教団(イスラム改革派)、バハーイー教、キリスト教、イスラム教シーア派などだ。

冒頭のシーンは、25歳のアフマディーヤ教徒がジャワ島西部チケウシクで襲撃を受けたときのこと。現場に警官はいたが、止めるための介入はなかった。友人3人が殺されたという。

インドネシアの宗教の自由を監視する団体セタラ・インスティチュートによれば、宗教マイノリティに対する暴力事件は、2012年は264件と、前年の244件から増加した。人権監視団体ワヒド・インスティチュートもまた、宗教の自由を「侵害する事件」が10年の64件から11年は92件に、「不寛容な事件」が134件から184件にそれぞれ増えたとしている。

攻撃を加えるのは「イスラム人民フォーラム」や「イスラム防衛戦線」などのイスラム過激派とみられる。ただ、こうした背景にはインドネシア政府の怠慢もある、と報告書は指摘する。

たとえばユドヨノ政権の閣僚のひとりアリ宗教相は11年、「アフマディーヤ派はイスラム教に背いている。アフマディーヤ派を禁止しなければならない」と発言した。12年9月にも、シーア派をスンニ派に改宗させることを提案するなど、宗教マイノリティへの差別を助長する発言・行為を繰り返してきた。ところがユドヨノ大統領はこの閣僚に対して何の処分も与えていない。

地方政府も、宗教マイノリティに対する放火や暴力などの事件を「被害者の責任」として対応する場合が多い。犯人が罰せられるのはまれ。さらに宗教マイノリティが宗教施設を建設しようと申請しても許可を出さないケースや、信者に移住するよう圧力をかける行為も報告されている。

HRWは「ユドヨノ大統領は、宗教の自由を認め、宗教マイノリティへの人権侵害を政府当局が助長しないようにする必要がある。援助機関は、宗教の自由の保護を怠っている実態を、緊急課題として取り上げるべきだ」と問題視する。

インドネシアは正式な登録宗教を6つしか認めていない。数百はあるとみられる伝統的信仰を「神秘主義信仰」として疎外化する政策を推進している。6つの宗教以外の信者にとって「結婚」や「出生証明書の申請」などが許可されるのは難しいという。