【yahman! ジャマイカ協力隊(12)】環境教育の成果はお金で測れない! 大事なのは「インパクト」を与えること

嫌々ではなく、楽しんでやったごみ拾い。子どもたちの顔も誇らしげ

「見て見て~~。5本集めたよ!」。ジャマイカの小学生数人が全速力で私に駆け寄ってきた。ゼエゼエと息が荒い。額には、太陽の光で輝く大粒の汗。子どもたちが手にしているのは、空のペットボトルだ。

子どもたちはいったいどこまでペットボトルを探しにいったのやら。ごみのペットボトルと引き換えに、私は、ご褒美のステッカーを「はい」と渡した。興奮気味の子どもたちは「もっと集めてくるね」と、元気にまたごみ拾いに駆け出していった。

■ごみ拾いでステッカーもらえる

ここはジャマイカ東部のポートアントニオ(ポートランド州)。私はこの町で、青年海外協力隊員として環境教育をしている。冒頭のシーンは、私の活動先である地元のNGO「4-Hクラブ」ポートランド事務所が開催した「アチーブメントデー」のひとコマだ。

アチーブメントデーとは、4-Hクラブが1年にわたって、幼稚園児から大学生までのクラブ員に提供してきた農業や家政、図工などのトレーニングの成果を披露する競技大会。各部門の入賞者は、全国大会へ出場できる。このイベントと併せて、私は、別の協力隊員と一緒に「環境チームのブース」を出展した。

ブースでは、私が作ったリサイクル工作の展示・販売から、洗剤を必要としない「アクリルたわし」の説明とサンプル配布、廃油から手作りした石けんの展示、環境教育の絵本や書籍の展示までをラインアップ。だが何といっても最大の目玉は、ペットボトルを回収するアクティビティだ。

1年前(2012年)のアチーブメントデー、私が驚愕したのは、イベント終了後に、地面を覆い尽くすほど、一面に捨てられていたペットボトルやお菓子の袋だった。今回はポイ捨てを減らしたい、と考え、たどり着いたアイデアが「Collect 5 bottles Get 1 sticker」(ペットボトルを5本集めて、ステッカーを1枚もらおう)というやり方だ。

ジャマイカでは、ほとんどのごみは分別されずに埋立地に運ばれるが、首都キングストンを中心に、プラスチックや紙をリサイクルする団体がある。ポートランド州でペットボトルを回収する環境NGOの協力を受け、多くの子どもたちが集まるこのイベントで、ペットボトルがリサイクルできることを「楽しみながら」学んでもらおうと思ったのだ。

■1000本のペットボトル回収

ステッカーはこの日のために作った。身近な場所に張ってくれるよう、デザインは色鮮やかで、ジャマイカの自然をモチーフにした絵柄だ。「No Recycle No Future」(リサイクルなしに未来はないよ)との文字を入れた。

ブースの壁に、手作りのポスターを張り、見せびらかすようにステッカーの束を机の上に置く。すると、子どもたちが続々と集まってきた。ステッカーをものほしげに見る子どもに、「空のペットボトルを5本集めてきたらあげるよ」とけしかける。後は簡単。ステッカーがもらえるぞ、という噂はあっという間に広まり、ペットボトル用のごみ袋はみるみる膨らんでいった。

「どうしてペットボトルを集めているの? 何に使うの?」。ステッカーを手にしながら、不思議そうに尋ねた小学生がいた。その質問こそ、私が待ち望んでいたもの。楽しみながら、リサイクルを学ぶ。ステッカーを後でじっくり眺めて気づく子どももいるかもしれない。その中に書かれたメッセージの意味に。

1日で、大きなごみ袋が5ついっぱいになった。200枚ほどのステッカーがなくなったので、およそ1000本のペットボトルが集まった計算になる。

イベントの翌朝、私は、会場となった大学のキャンパスでごみを拾いながら「去年よりポイ捨ての量は圧倒的に減ったな」と実感した。アクティビティの大成功に達成感いっぱいだった。

■ブースに来た人数を集計すべきか

ところが、アチーブメントデーが終わって2週間後、実行委員会の振り返りのミーティングに参加した時のこと。あるジャマイカ人メンバーが発した言葉に私は大きなショックを受けた。「どれくらい稼げたのか」と尋ねてきたからだ。

リサイクル工作のアクセサリーを販売するよ、とは伝えていた。ただその目的はあくまで「環境教育」。お金を稼ぐことではない。身の回りにあるもので価値の高いものが作れるよ、と教える機会になれば、と私はとらえていた。

「利益は少なかったけど、リサイクル工作を手に取って眺める人は多かったし」と私が満足げに言うと、そのメンバーは「ブースに来た人に名前を書かせれば、何人立ち寄ったかがわかったのではないか」と不満をぶちまけた。

確かに、ブースを訪れた人数を集計しておけば、「イベントの実績」としては残るかもしれない。だが、それは環境教育の実績とは違う。

そもそも環境教育の成果は数値化できるものなのか。ペットボトルを集めに走り回ったすべての子どもたちに環境意識が芽生えたとは考えにくいし、2日間かけて編んだアクリルたわしのサンプル30個が、もらった人のキッチンでいま使われているとも限らない。

私は数字だけを挙げて「環境教育をしました」とは言いたくない。環境教育がそれなりの成果を出すには、種が芽を出し、花を咲かせるように、時間がかかると思う。肝心なのは、種となるきっかけを与え続けることだからだ。

イベント大成功の裏で、ちょっとのぞいた大人の本音。環境教育の活動で売り上げを最初に聞くような大人からは、環境を守ろうと真剣に考える子どもは育たないだろう。しかし、ステッカーという獲物につられてペットボトルを集める子どもも、そんな大人と本質は変わらないかもしれない。いや、そんな仕掛けを考案した私だって同じ穴のムジナかな、とふと思った。(ジャマイカ=原彩子)