移民の娘にとって夏休みは“強制結婚のシーズン”、英国政府が注意を喚起

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南アジアなど旧植民地からの移民を多く抱える英国で、夏休みは“強制結婚のシーズン”となっている。移民の親たちがまだ十代の娘を祖国に連れて行き、強制的に結婚させるからだ。BBCの8月10日付記事によると、「強制結婚は重大な人権侵害」との立場をとる英政府は、学校教師や医師、空港スタッフらに対し、強制結婚の問題に注意を向けるよう警告している。

英政府の試算によると、1年に5000人以上が英国を出て、強制結婚させられているという。その3分の1は16歳未満だ。英政府は2012年6~8月の3カ月で400件の強制結婚の通報を受けたが、外務省高官のマーク・シモンズ氏は「夏休みは、若い女性にとって強制結婚のリスクが一番高い時期だ」と懸念をあらわにする。

事態を重くみた英政府は、被害に遭う可能性のある女子生徒を対象に、電話での相談受け付けをPRしたり、強制結婚の実態や支援を受けられる方法などの情報を載せたカードを配布し始めた。子どもの支援団体フリーダム・チャリティーの創設者アニータ・プレム氏は「強制的に結婚させられそうになったとき、支援のコンタクト先を知っておくことはとても重要だ」と話す。

マンチェスター市議で、強制結婚反対の運動家サミーム・アリさんは、強制結婚の実態は30年前とほぼ変わっていないと指摘する。サミームさんは13歳のとき、パキスタンで強制結婚させられた経験をもつ。「強制結婚させられることがわかったのは、式の1週間前。夫となる相手とは1度もあったことがなかった」と30年前の状況を振り返る。

英国へ戻る唯一の方法として教えられたのは妊娠することだった。サミームさんは5カ月後に身ごもり、母に英国へ連れて帰ってもらった。帰国後に驚いたのは、14歳で妊娠したにもかかわらず、医師からでさえ、何が起きたのかなど、一切質問されなかったことだ。

強制結婚をなくすためには、まずは、強制結婚の現実を広く知ってもらう必要がある。そのためには「(啓発活動を)学校で始めなければならない。教師らは、子どもたちを保護する役目を担う。強制結婚の問題についても積極的に教えないと、この問題はタブーとなりかねない」とサミームさんは言う。

サミームさんはまた、強制結婚を「違法」とすべきかどうかについても言及。「法律で取り締まっても、水面下で行われるだけ。そもそも自分の母や父を刑務所に入れたいと思う子どもはどこにもいない」と反対する姿勢を明確にした。

ただ強制結婚を違法化する動きは英国で広がりつつある。スコットランドではすでに、行政命令により強制結婚は違法だ。英政府は、イングランドとウェールズでも違法とする計画を公表している。(新口慎太郎)