みんなで歌えば立ち止まってくれるでしょ? 在日ミャンマー人が“路上ライブデモ”で国軍クーデターに抗議

喫煙所にいるスモーカーや歩行者に向けて“路上ライブデモ”をする在日ミャンマー人ら(東京・池袋)「国際社会はミャンマーへの関心が薄い。だから女性自らが前に立って国際社会に訴える」と話す在日ミャンマー人たち。喫煙所にいるスモーカーや歩行者に向けて“路上ライブデモ”をする(東京・池袋)

「日本人はデモを怖いと感じるでしょう。だから私たちは歌を歌いながらチラシを配るんです」。在日ミャンマー人が結成した有志団体「Know us more Myanmar」(情報サイト「ミャンマーの真実」を運営)のメンバーであるウィンさん(35)はこう語る。Know us more Myanmarは3月27日、都内の池袋駅東口の喫煙所前で、「A Lo Ma Shi/軍はいらない」などの歌を歌いながら、2月1日に起きたミャンマーの軍事クーデターについて解説するチラシを1500部配った。通りすがりの日本人からは「デモは怖くて近づけないけど、こういう活動はいいね」という声援もあった。

世界が終わる日まであきらめない

「建国の父、親愛なるアウンサン将軍よ。この国は今も血を流しています」

Know us more Myanmarのメンバーのうち約10人が、市民不服従運動(CDM)のテーマソングをビルマ語で歌う。テーマソングのひとつ「Kaba Ma Kyay Bu/世界が終わる日まで」の歌詞には「民主主義は殺された」「世界が終わる日まであきらめない」というミャンマー人の悲痛な叫びが含まれる。

歌を聞こうと立ち止まった通行人に、「ミャンマーで今、なにが起きているのか?」というチラシをすかさず配るのは、Know us more Myanmarのメンバー数人と当日参加した約20人のミャンマー人ボランティアの役目だ。

このチラシを作ったのは、Know us more Myanmarのメンバーであるメイさんとワーゾーさん。平日の仕事が終わった後に夜通しかけて完成させた力作だ。写真やイラストとともに、国軍による暴力行為や国民の声などをわかりやすく説明した。

チラシを受けとってくれた人たちは口々に温かい声援を送ってくれる。

「ミャンマーに行ったことあるよ。大変だね」「ニュースで聞いて何かしたいとは思っていて」「募金箱はどこ?」

ボランティアのひとりタンさんによると、3月13日に東京・渋谷で路上ライブデモをしたときは、現金入りの封筒を渡してくれたり、コーヒーやお茶、お菓子などを差し入れしてくれたりした人もいたという。ちょっとした声がけだけでも「本当に嬉しい」と笑う。

その半面、拡声器で呼びかけしていると、「うるせえよ」と後ろからまれに暴言を吐かれることも。だが「悪口は気にしない」。

きっかけはクラブハウス

路上ライブデモ”の仕掛人のひとりで、Know us more Myanmarのメンバーである新井明音さん(28)は言う。

「Know us more Myanmarのメンバーやボランティアはみんな、かわいい子ばかりでしょ。かわいい女性が歌うと、みんな立ち止まってくれる。チラシを受け取ってくれる人も増えた」

今回の路上ライブデモでは午前10時~午後3時半の約6時間半で1500枚を配った。

それにウィンさんは続ける。

「ミャンマーに関心のある人はすでに、署名や寄付といった活動に参加している。(チラシを見て)ミャンマーにかかわりがなかった人にも関心をもってもらいたい。そうすれば署名も増えて、国外からミャンマー国軍にプレッシャーをもっとかけられる。まずは、日本人ひとりひとりに呼びかけることが大事」

ウィンさんは日本にやってきて10年以上。日本人の友人も多い。「デモに抵抗を感じる人が多い日本で、デモをすることに違和感があった」。だから路上ライブデモを思い立ったという。

新井さんは、実はもともとミャンマーの政治に興味がなかった。普通の社会人だった。

「軍事クーデターをきっかけに、(民主主義について)真剣に考えるようになった」。だがミャンマー国軍の残虐行為にいてもたってもいられず、Know us more Myanmarを立ち上げた。

活動を始めるきっかけとなったのは、クーデターでミャンマー人の日常が奪われた事実を日本人に知ってもらうためにチラシを配りたい、と音声SNSのクラブハウスで発信したことだ。新井さんの呼びかけに、在日ミャンマー人を中心に20~30代の社会人が賛同。仕事があっても、平日の夜中3時まで話し合いをすることも少なくない。自分や子どもたちの未来を取り戻したい一心だという。

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