売春婦となるシリア難民が増えている。ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などが7月29日付で報じたもので、家族のためにお金や食料を確保するというのが理由だ。こうした行為を援助従事者たちは「サバイバル・セックス」と呼んでいる。
■難民キャンプに売春宿
この問題の背景にあるのは、難民のおよそ7割が女性と子どもであり、生活力が乏しいという現実がある。シリア難民を最も多く受け入れるレバノンのアイン・ヘルワやサダヤなどの難民キャンプの中には「売春宿が多い」とレバノンの難民支援団体「結束と開発」で働くリマ・ザーザー氏は明かす。
シリア第3の都市ホムスからレバノンに逃れてきたイシュタさん(16歳)も売春婦になったひとりだ。2012年12月、イシュタさんの父は空爆を受けて死亡。これをきっかけに、母、姉とともにシリアを脱出した。当初は、姉と一緒に、ベイルート、ベルダンで、生活していくために物乞いを始めた。だがすぐに性的虐待を受けるようになった。数週間後、自暴自棄に陥ったイシュタさんは売春婦になった。
「男たちは、車や廃墟ビルの中、荒地に私を連れて行き、動物のように扱う。ほとんどの男性はコンドームを使わない」とイシュタさん。報酬は1人につき20~30ドル(2000~3000円)。1週間におよそ6人の相手をするという。援助従事者らの話では、客をとる値段は、ベイルート郊外や南部レバノン、ベッカー高原では7ドル(約700円)程度だという。
■援助従事者も顧客
ショッキングなのは、シリア難民の女性を買春する顧客に援助従事者も少なくないこと。また売春婦でなくても、女性の難民という弱みに付け込んで、セックスを求めてくることはざらだ。
シリア難民で、二児の母でもあるアフナさん(26歳)は「援助従事者から、セックスを要求されることは珍しくない」と暴露する。NGOの男性スタッフからある日、「男性と性的な関係をもてば、男性が何か援助物資を手に入れたとき、それを分け与える」と言われた。アフナさんは泣いて、このNGOを離れた。
レバノン政府の発表によると、同国が受け入れたシリア難民の数は100万人以上。13年末には200万人に達する見通しだ。受け入れ先となる難民キャンプは不十分で、女性難民の多くは、難民キャンプの外の廃墟ビルや安い家などを借りて、生活している。だが、家主やレバノン政府の役人から「セックスさせろ」と求められるケースは後を絶たない。
■おじからも性的虐待
女性を性の対象とみるのは、援助従事者や家主、レバノン政府の役人だけではない。「多くの女性は家の中で、特におじやきょうだいからの性的虐待に苦しんでいる」と、レバノンの難民支援団体「国境なき開発活動」のカッセム・サードさんは指摘する。
多くのシリア難民は、過度に人数の多い環境や古い建物、廃墟ビルや雑にできた避難所などで生活している。そのため男性は、強い憤りや怒りがたまる。そうしたストレスが、近くにいる女性への虐待につながるというわけだ。
女性たちを保護しようと、国境なき開発活動は、技術を身に付ける訓練を女性に提供し始めた。内容は、家庭内での性的虐待から自分自身をどう守るのか、どう対処するのかというもの。また、法律の力を活用することを視野にレバノンの司法当局と連絡をとっているが、同国の法律は「夫婦間のレイプ」を認めておらず、事態の改善は簡単ではないのが現状だ。(有松沙綾香)