【interview】「難民の子どもが日本社会に将来貢献できる」ような支援体制を、難民支援協会の石井宏明常任理事に聞く

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日本政府が2010年からスタートさせた「第三国定住」政策。第三国定住とは、本国で紛争などが勃発したことを受けて近隣諸国に逃れた難民を、先進国などの第三国が受け入れる制度を指す。日本は10~11年、この制度で45人の難民を受け入れた。だが12年はゼロ。13年には4家族18人が日本へ定住しにやってきたものの、課題は依然として山積みだ。難民の自立を支援し、政策提言もする認定NPO法人難民支援協会の石井宏明常任理事に、第三国定住を含めた日本の難民受け入れの現状、難民支援体制のあり方について話を聞いた。

■日本語の壁にぶち当たる

――日本で生活する難民はどんな問題を抱えていますか。

「大きな問題のひとつは、大人と子どもの日本語能力の差が開き、生活に支障が生じることです。子どもは日本の学校に通うので、日本語を早く覚えます。ところが大人は職業訓練や職場への適応に時間がとられることもあって、日本語の習得は遅くなってしまう。そこで、親が子どもに通訳してもらって生活するという現象が起きます。このため、たとえば子どもが重い病気にかかったとき、親の対応が遅れることがあります。

そもそも日本では、自力で逃れてきた難民が難民申請をし、保護を求めても、なかなか認められない厳しい現実があります。難民申請中の人たちは、法的な地位が不安定なだけでなく、生活でも困窮していることが少なくありません」

――第三国定住はどんなプロセスで進めているのですか。

「第三国定住では、難民はまず、半年間にわたって都心で研修を受けます。その後、就職先を見つけ、その地域に住むことになります。研修が終わってずっと現場で対応するのは、地方自治体や難民の雇用主など地域の住民です。

難民を受け入れている地域は、やり方を模索しながら、ものすごく努力している状況だと思います。より良い受け入れを後押しするため、政府、地方自治体、NGOを連携させるなど、改善の余地はたくさんあります」

――第三国の日本で暮らすことを難民が選ぶ背景には何があるのでしょうか。

「自分の子どもたちの将来を思って、難民の親は決断したのでしょう。こうした期待にも応えられるように、難民受け入れの戦略として、難民の第二世代である子どもたちが『希望をもって十分に暮らしていけること』『日本社会に貢献できる人材になれること』を意識した支援体制を作っていくことが、長期的な視点では最も重要です」

■難民受け入れで地域活性化

――難民の第三国定住に関する有識者会議が2012年、内閣官房で発足しました。石井常任理事はその委員も務めています。この有識者会議をどう評価しますか。

「難民をテーマとする有識者会議の設置は画期的です。発足当初の委員の構成は、大学関係者3人、自治体代表1人、ジャーナリスト1人、NGO2人。NGOを交えて、難民受け入れ政策を議論する機会はこれまでなく、今回が初めてです。とはいっても、教育や産業の分野や、難民の意見を代表するグループの人たちが参加できていないのは不十分ではあります。

私自身は、有識者会合がマルチ・ステークホルダー・ミーティング(すべての関係者が参加する会議)になることを期待しています。マルチ・ステークホルダー・ミーティングでは、政策決定者から、難民の職場や難民の子どもが通う学校の関係者まで、難民の受け入れに携わる多様な人たちが意見を交換します。意見・アドバイスを反映させた予算・施策を打ち出し、それに則って、地域住民が安心して難民に対応できるような体制を作り上げていくのです」

――日本はどんな「難民受け入れモデル」を作るべきでしょうか。

「難民受け入れの現状をみると、日本政府が提供する1年の研修期間が終わった後、地方自治体や地域のコミュニティが自前で予算を捻出し、支援を引き継ぐことになっています。やはり政府がきちんと予算を手当てし、地域での支援が滞りなく機能するよう仕組みを整えることが欠かせません。

難民を支援していくには、自治体、地域コミュニティ、NGO、企業(雇用者)、学校・保育園など『すべての関係者を調整する組織』の設置が必要不可欠だと私は考えています。そこで私は、難民受け入れモデルとして3つの選択肢を提案しています」

――3つの選択肢とは何ですか。

「1つは、最上部に政策者会議を置き、その下に、複数の自治体で構成する会合や機関を設けるやり方です。『自治体主導』というのがポイントです。各自治体の政策はこの会合でコーディネートし、ここで決まった政策は、自治体の各部署やNGOなどの現場が実行します(図1)。

図1

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2つめの選択肢は、政策者会議と、複数の自治体で構成される会合(機関)の中間組織として『統括機関』を設けます。統括機関は、各自治体の状況をモニタリングし、支援の基準に合わせたプログラムを策定します(図2)。

図2

図2

3つめは、政策者会議の下部組織に、地域内の政策をコーディネートする『民間のコンソーシアム』を設けるものです。自治体とNGOの垣根が低い米国方式といえるでしょう。自治体とNGOの関係が密でない日本では、この方法を実行するのは難しいかもしれません(図3)」

図3

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――3つの選択肢のうち、どのモデルが最適だと考えますか。

「最適というのはありません。現状でできるモデルをまずは目指し、他の選択肢が実現できるようになったら、次の段階への移行を検討すればいいのです。既存のさまざまな制度にのっかった独自の難民受け入れ支援モデルを早期に作り上げることが肝要です。どのモデルを選んでも、難民が暮らす地域を主体とした制度にしなければいけません。

モデルはまた、大都市圏、地方都市圏、山間地など地域の特性とマッチしていなければ、難民の生活・職場環境に沿った支援はできません。忘れてならないのは、外国人が少ない地域に難民が来ることによって、町おこしや集落の活性化など、地域にとってメリットがあるかもしれないことです」

■日本語教師のボランティアも

――難民のことを知らない人ができる難民支援の方法はありますか。

「たとえば日本語教育の手伝いです。米国のボルティモアなどには、移民の大人が英語を学べる『アダルト・ランゲージ・スクール』があります。語学の習得が遅れがちな大人に、ネイティブのボランティアが言葉を教えるのです。この場合、特別な知識やスキルは必要ありません。

ですが日本では意外と、難民についての知識をもつ人、難民政策・難民支援の経験がある人は少なくありません。問題は、そういった人たちの知識や経験をとりまとめ、活用する機会や制度がないことです。だからこそ、私が提示した3つのモデルの構築が必要なわけです」

――最後に、NGOが果たすべき今後の役割を教えてください。

「NGOにとって重要なのは、個人ボランティア、教育機関・難民を支援するグループなどを、できれば地域や分野の枠を超えて連携させていくことです。難民支援協会もそのコーディネーションの役割を担っていきたいと思っています」