フィリピン・セブ島のカワヤナンという漁村には意外にもオクラ畑が広がっている。オクラ農家のアキニノ・アンタッドさん(63) はひときわ目立つ立派な“オクラ御殿”に住む。周りの家は薄い木やトタン板で作られ、窓も、壁をくりぬき布のカーテンをつけただけの質素な家。しかしアキニノさんの家はコンクリートで堅固に作られていて、壁には外をのぞけるようにガラスのブロックが埋め込まれている。窓も近代的だ。「オクラの収入でこの家を建てた」と満足げに微笑む。
アキニノさんは1ヘクタールの畑を持つ専業農家だ。そこでオクラをメインに、スクワッシュ(カボチャの一種)も栽培。オクラは年に2回収穫シーズンがあり、収穫後は近くのマーケットまで売りにいく。値段は1キログラム35ペソ(約88円)。1シーズンの収穫は2カ月にわたって週3回行われるという。その量は1回20キログラム。オクラだけの収入は収穫シーズンだとひと月8400ペソ(約2万1000円)、1シーズンでは1万6800ペソ(約4万2000円)。1年では3万3600ペソ(約8万4000円)になる。
近くに住む女性は「オクラは儲かる野菜だ。しかし私は土地を持っていないので植えられない」と残念そうだ。彼女の夫は漁師。それにもかかわらずもし土地があればオクラを育てるかという問いに、彼女は間髪入れずに「イエス」と大きく頷いた。それほどオクラ栽培は魅力的なビジネスなのだ。
この漁村は村人全員が漁師ではない。驚くことに、漁師は村人の約半数。残りはドライバーや工場の作業員など、違う職業だ。アキニノさんの息子(31)も、別の村でサリサリストア(日用品やお菓子などを小分けにして売る小さな小売店)を経営している。