【インドうっかり移住レポ①】歯科インプラントの価格は日本の10分の1だったけど‥‥

歯科クリニックの玄関。クツを散らかして脱ぐのがインド流。院内ではスタッフはサンダルを履いていますが、患者用スリッパはなし。これもインド流歯科クリニックの玄関。クツを散らかして脱ぐのがインド流。院内ではスタッフはサンダルを履いていますが、患者用スリッパはなし。これもインド流

一人息子が成人してシンママ(シングルマザー)任務を終え、両親がまだ健在である人生束の間の自由時間に、インドへ単身移住したアラフィフの私。インド西部の大都市ムンバイで働き始めて2カ月が経った先ごろ、私の前歯がポロリと落ちました。新連載「インドうっかり移住レポ」の第1回は、インドでインプラントすることになった話を書きます。

■アレを食べたばっかりに

ある日、私の勤務先の翻訳会社で、営業チームが大きな仕事をとったと大騒ぎしていました。時間はちょうど、インドのランチタイムである午後3時。ウーバーイーツのインド版ともいえるフードデリバリー「スウィギー(Swiggy)」でピザが10枚届き、私がいる顧客サービスの部署にも振る舞われました。

カレーの国インドですが、ハンバーガーと並んでピザも人気なのは日本と変わりません。違うのは、ベジタリアン用に肉の代わりのパニール(カッテージチーズ)のピザがポピュラーなこと。私はベジタリアンではありませんが、このパニールが大好き。なので、ありがたく一切れガブッといったところ、数カ月前に日本の歯医者で入れた差し歯が、ポロッととれたのです。

「ナヒーン!」(ヒンディー語で「いやー!」)。降ってわいた災難。インドで歯医者に行かないといけないの? 保険に入ってないのにどうしよう。

パニールまみれの歯を眺めつつ、まず心配したのはお金のこと。勤務先の医療保険は、歯の治療をカバーしてくれません。私は現地採用の社員なので、家賃と光熱費を引いた後の手取り額は約7万ルピー(約11万円)。物価が安いおかげでふつうに生活する分には支障ないのですが、緊急事態となると心もとないです。

■歯医者で値切ってみる

「ムンバイでおススメの歯医者、知っている?」。歯抜けの間抜け顔で上司や同僚に相談すると、みんな気の毒がりながら半笑いで助言してくれました。勤務先の近くに「知識と経験があり優しい女医がいる」とのこと。

私はすぐに、電話してみました。すると、大きな野太い声の女医が出て、「オーケー、じゃあ写メを送って」。日本ではまずない展開です。さらに「いつ来られる? きょう? オーケー!」というスピード感で話が進みます。

懸案の値段について聞いたところ、「歯根がダメになっているから、ブリッジかインプラントのどっちかになる。ブリッジは1万8000ルピー(約2万7000円)、インプラントは3万5000ルピー(約5万2000円)よ」。

驚いたのはインプラントの値段。安すぎです。日本のおよそ10分の1。日本の1本分の値段で、インドでは10本も入れられます。まさに、ピンチをチャンスに変える場面到来。奥歯が1本ないことをちょうど思い出し、「もし2本一緒にオーダーしたら安くなる?」と、インド生活で身に着けた価格交渉にトライしました。

すると女医は「イエス、イエス! 2本なら7万ルピー(約10万5000円)のところ、一括払いなら6万ルピー(約9万円)よ!」と即答。なんともざっくりな割引に思わず私が声を出して笑うと、女医も大きな野太い声で笑っていました。もっと値切れたのかも。

■不潔という文字は辞書にない?

その日の夕方、歯科クリニックを訪れました。きれいなマンションの一室。小さい部屋でしたが内装もぴかぴかでした。この辺りはムンバイの郊外で、建物は古くて汚いのが標準です。内装のオブジェにもお金をかけているところを見ると、このクリニックは流行っているのだなと想像できました。

ところがです。院内の美しさとは裏腹に、スタッフの衛生管理は残念ながらインド標準でした。歯型をとるための粘土みたいなものを2人のスタッフがそれぞれコネコネし始めたとき、見ると2人とも素手。しかも手も洗っていなかったようす。マスクもせずに、2人でおしゃべりしながら練っていました。それを医療用手袋を付けた女医に渡すのですが、その粘土、もはや不潔です。

私の差し歯が作業台からコロリと床に落ちたときも、さっと拾って脱脂綿でひとなで。何事もなかったかのように私の口の中にインされました。

これが日本だったら物申すところです。でもここはインド。飲食店でも作業はだいたい素手。落ちたものを拾ってそのまま使うのも「普通」の範疇であることを忘れてはいけません。日本のように3秒ルールがあるのか、インド人に聞いたところ、似たような「God or devil(神か悪魔か)」というのがあるそうです。でもそれは食べ物を大事にするための考え方であり、衛生の観点ではないそう。お国柄が言葉遊びにも表れますね。

次回は、歯科治療のもようを取り上げます。(続く

歯科クリニックが入るマンションの外観。低層階には、他にも個人開業医がたくさん入っています

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歯科クリニックのおしゃれな待合室。掲示されたドクターリストには女医の肩書が「スマイルデザイナー」とありました

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パニールのピザ。パニールは、牛乳を温めてライムや酢などで凝固させ、乳清から分離したカッテージチーズを押し固めたもの

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