就学率だけではなく「質の高い学習機会を提供したい」、ネパール人と日本人が立ち上げた“国連の先”を行く異色のNGOサルタック

本を読み聞かせする

ネパールで教育支援に乗り出したNGOがある。サルタックだ。日本人とネパール人が共同で2013年に立ち上げたもので、ネパール・ラリトプルに本部を置く。日本には、シンポジウム開催などを担うNPO法人サルタック・ジャパンがある。サルタックの活動でユニークなのは、初等教育の普及だけでなく、「質の高い学習機会の提供」を打ち出していることだ。2015年までに全世界の人たちが初等教育を受けられるようにするとうたう国連「ミレニアム開発目標」の一歩上を行く。

■「子どもへの読み聞かせ」と「母親の自立支援」に力

サルタックが展開している活動の柱は2つある。1つは低学年の児童への読み聞かせだ。ネパール人のボランティア大学生が週に1度授業後、小学校で子どもたちにネパール語の本を読んであげる。

本と接する機会が少ない子どもには好評だ。「子どもたちの中には大学生のお兄さんお姉さんの話が楽しいと言ってくれる子もいる」とサルタック・ジャパンの荒木啓史代表理事は話す。読書を通じて、生きていく上で必要なリテラシーを子どもたちが自然に身につけることを目指す。

もう1つは、「シープ(SEEP: Self-Employment Education Program)」という母親の自立支援活動だ。母親が日常生活を不自由なく暮らし、ビジネスを営めるようになることを目標とする。そのため、毎日2時間、文字の読み書きや会計知識、ビジネスの方法などを教えている。活動は、孤児に対する教育を支援する現地NGOチャイルド・デベロプメント・ソサエティと進めている。荒木代表理事によれば、特に貧困層においては、親の知識水準や教育の重要性に対する理解が、子どもの教育環境や将来の生活水準に大きく影響を与えるという。

児童中心主義の授業を展開したい

サルタックの活動は「児童中心主義」の考えに基づく。児童中心主義とは、子どもの主体的な学習を呼び起こすことを目指すもの。教師が一方的に教える従来型のスタイル「チョーク&トーク」とは大きな違いがある。

荒木代表理事は「ネパールの初等教育就学率は90%以上。だが学校に通っていても読み書きできない子どもも少なからずいる。教育の『質』については改善の余地が多い」と問題点を指摘する。

質の高い教育を提供するためにもサルタックは、独自の学習センターの設立を考えている。学習センターでは、子どもが単に教師の話を聞いて知識を詰め込むのではない。学習内容について自分の意見を発表したり、教師や他の子どもと議論ができる参加型授業をしたいとしている。このような学習方法に見合った独自教材の開発も目指していくという。

このほか、学習センターではお菓子などを配り、栄養面で補助することも検討している。子どもが少しでも健康的な状態で学習に取り組めるようにするためだ。発足してまだ1年、いまは生みの苦しみを味わっているところだが、「ネパールの活動を成功させ、モデルケースとして他の国・地域に応用していきたい」と荒木代表理事は語る。