小学校さえなかったカンボジア北西部のプレイキション村、中学校への進学率が100%になったわけ

カンボジア・シェムリアップ州にある「プレイキションはちどり小学校」で子どもたちと本を読む宮手恵さん(中央)カンボジア・シェムリアップ州にある「プレイキションはちどり小学校」で子どもたちと本を読む宮手恵さん(中央)

中学校への進学率が100%の村がある。カンボジア・シェムリアップ州にあるプレイキション村だ。日本の国際協力NGO「はちどりプロジェクト」が2012年に小学校を建てて以来、隣国のタイへ出稼ぎに行く親は、これまで一緒に連れて行っていた子どもを村に残すようになった。同NGOの宮手恵理事長は「(カンボジアにはない)授業参観や卒業式を行うことで、子どもの成長を親が実感でき、教育の重要性をわかってくれるようになった」と話す。

■学校を建てても来てくれない

プレイキション村に小学校ができたのは2012年2月3日。名前は「プレイキションはちどり小学校」。教育を否定したポル・ポト時代(1976~79年)以来、実に30年以上ぶりの小学校の誕生となった。

160万円をかけて村に学校を建てたはちどりプロジェクトの宮手さんは当初「これで子どもたちは学校に通える」と考えていた。だが事態はそう単純ではなかった。タイへ出稼ぎに行く親が子どもを連れて行ってしまうため、中退する子どもが多かったからだ。

その理由は経済状況にある。プレイキション村の住民の95%はコメ農家。ただ稲作だけで生活するのは難しく、11~5月の農閑期に子どもを連れてタイへ出稼ぎに行く親は少なくない。タイでは学校に通えないため、村に戻った子どもは授業についていけず、やめてしまうケースが多かった。村を出たまま、返ってこない子どもも少なくなかったという。

■授業参観と卒業式を採用!

この問題をなんとか解決するため、はちどりプロジェクトは小学校を建てた後も、教師らと話し合いを重ねるなど運営にかかわってきた。そこで湧いて出たアイデアが、授業参観と卒業式を行うことだ。いずれもカンボジアの小学校にはないという。保護者に教育へ参加してもらうことが狙いだ。

子どもの成長を目の当たりにすると、親は、自分が学校に行っていないゆえにイメージしにくかった学校の様子を知ることができる。宮手さんは「プレイキション村ではここ数年、子どもが学校にずっと通うことが主流になってきた」と喜ぶ。親が、農村に残る祖父母に子どもを預け、出稼ぎに行くようになったためだ。

問題は、小学校を卒業しても、プレイキション村に中学校がないことだ。隣村の中学校に通うにしても、歩くと片道1時間10分かかる。アクセスの悪さを解決する策として、はちどりプロジェクトは、自転車をもっていない子どもに、寄付金のお金を使い、自転車をプレゼントし始めた。「全員が中学校に進学してほしい」と宮手さんは願う。

この8月、プレイキションはちどり小学校の卒業生が初めて、中学校を卒業する。その数は13人。宮手さんは「この中から、村で産業を興したり、他の地域に学校を建てたりする生徒が出てきてくれたら嬉しい」と期待を寄せる。

プレイキション村で小学校を卒業した子どもの中学校への進学率はいまや100%。中学校へ進学した生徒たちの中退率はゼロだ。国連児童基金(UNICEF)の「世界子供白書2017」によると、カンボジアの純就学率は小学校で男子94%、女子96%、中学校で男子44%、女子49%。この数字と比べると、プレイキション村のすごさがわかる。

■次の目標は雇用創出

だが課題もある。親の出稼ぎに連れて行かれる子どもがまだいることだ。その割合は、はちどり小学校に通うはずの子どもの数の1割強。貧しさをなくさない限り、出稼ぎも、小学校教育を受けられない子どももゼロになることはない。

そこではちどりプロジェクトは、プレイキション村で雇用を創出するプロジェクトを立ち上げることにした。そのひとつが2014年に始まった、カンボジアの綿を原料に紙を作るプロジェクトだ。紙には赤や青の色を付け、アンコールワットを刺繍する。この紙はピアスやイヤリングの飾りの部分に使ったり、ポストカードとして売られる。はちどり小学校の卒業証書もこの紙から作る。

ただ雇用の数はまだまだ少ない。プレイキション村全体の世帯数129世帯に対し、はちどりプロジェクトが雇うのは20~50代の女性10人のみ。「もっと増やしたいが、経済的に難しい」と宮手さんは語る。