米国に亡命したチベット人映画監督の娘「14年前も今も中国でチベット人に言論の自由はない」

10年の歳月を経て再会したドゥンドゥップ・ワンチェン監督、妻のラモツォさん、子どもたち10年の歳月を経て再会したドゥンドゥップ・ワンチェン監督、妻のラモツォさん、子どもたち

チベット映画をテーマとするオンライントークイベントが2月6日、開催された。登壇したのは、2008年夏の北京オリンピックの直前に、中国に住むチベット人の声を伝えるドキュメンタリーを制作したため投獄されたチベット人映画監督の長女であるダドゥン・ワンモさんだ。先ごろ閉幕した冬の北京オリンピックについて「今回の開催も反対。14年前から、中国(政府)のチベット人に対する人権侵害は何も改善されていない」と訴えた。

ドキュメンタリーを作ったら懲役6年

今回のオリンピックの開催にワンモさんが反対した理由は、中国ではいまだに、チベット人への弾圧が続いているからだ。「今も変わらず、チベット人に言論の自由はない」と説明する。

ワンモさんの父、ワンチェン監督が撮ったドキュメンタリー映画のタイトルは「恐怖を乗り越えて」。2008年夏の北京オリンピックが開かれる前、北京オリンピックに対する思いや中国、ダライ・ラマ法王についてチベット人100人以上にインタビューし、映像にまとめたものだ。

この作品を制作したことでワンチェン監督は投獄された。罪は「国家分裂扇動罪」。懲役6年の刑だった。2010年4月に、中国西部の青海省にある労働改造所に入れられた。2016年6月に釈放された。

ただ釈放された後も苦難は続く。中国政府はワンチェン監督を軟禁状態に置いた。行動は常に監視下。ワンチェン監督は意を決し、亡命を試みる。2017年のクリスマス、先に亡命していた家族と奇跡的に米国で合流。10年ぶりだった。

ウイグル・内モンゴル・香港・台湾にも

中国政府の少数民族に対する人権侵害は悪化する一方だ。

ワンモさんは「(前回の北京オリンピックが開かれた)14年前と変わらず、ドキュメンタリーなどの映像はすべて中国当局の厳しい検閲が入る。チベット人に対する中国政府の不当な扱いについても、チベットでは声を上げられない」とチベットの現状を説明する。

ワンモさんはさらに続ける。

「国際オリンピック委員会(IOC)は、中国政府が国内の人権問題を改善することを条件に2008年の北京オリンピックの開催を認めた。それなのに14年経っても改善はない。中国政府は『政治とスポーツを一緒にするな』と言うばかりだ」

中国の人権問題はもはや、チベット人だけが標的ではない。ワンモさんは「新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区、香港、台湾。状況は少しずつ違うが、中国政府の人権侵害は拡大している」と危機感を抱く。

今回のオンライントークイベントを主催したのは、「チベットの映画上映&トーク」実行委員会。共催は、明治大学現代中国研究所、アムネスティ・インターナショナル日本 中国チームだ。

上映したのは2本の映画。1つは、2008年の北京オリンピックの前にチベット人の思いをつづった「恐怖を乗り越えて」(監督:ドゥンドゥップ・ワンチェン)。もう1つは、その作品で投獄されたチベット人監督の家族の亡命生活を追ったドキュメンタリー「ラモツォの亡命ノート」(監督:小川真利枝)だ。