日本で搾取されると問題の「外国人実習生」、ハノイで訓練中は大きな夢膨らむ

筆者が訪問した技能実習生教育訓練センターは4~5つのクラスに分かれ、日本語を勉強する。ハノイ近郊だけでなく、ベトナム全土から訓練生は集まる。日本語教師のほとんどはベトナム人で、片言しか日本語を話せない。唯一まともに会話できる専属のベトナム人教師(ハノイ外国語大学の学生)は1カ月に400万ドン(約2万2000円)を稼ぐ筆者が訪問した技能実習生教育訓練センターは4~5つのクラスに分かれ、日本語を勉強する。ハノイ近郊だけでなく、ベトナム全土から訓練生は集まる。日本語教師のほとんどはベトナム人で、片言しか日本語を話せない。唯一まともに会話できる専属のベトナム人教師(ハノイ外国語大学の学生)は1カ月に400万ドン(約2万2000円)を稼ぐ

「私の名前は○○です。○歳です。日本に行ったら、一生懸命働きます! 辛いことがあっても辞めません。よろしくお願いします」

ここは、ベトナム・ハノイにある「技能実習生教育訓練センター」。わかりやすくいうと、日本の技術を途上国の人に学んでもらう名目で、安い労働力を日本に輸入するために日本政府が音頭を取る「外国人技能実習制度」に参加するベトナム人実習生を派遣前に訓練する場所だ。

■宿題の間違いで罰金500円

冒頭のフレーズは、“にわか日本語教師”としてセンターを訪れた筆者に、訓練生らが自己紹介したもの。日本語はたどたどしいが、ハキハキと話す。最後に一礼も忘れない。軍隊のように厳格だ。

このセンターで働く日本語教師に尋ねると、「日本の受け入れ企業や仲介業者がセンターに時折やってくる。その際に面接をするので、それを想定した自己紹介だ」という。仲介業者は、訓練生を品定めし、だれを日本に連れて行くかを決める。

センターでは、日本で働くことを夢見るベトナムの若者たち70~80人が敷地内で寝泊まりしながら、日本語と日本の礼儀作法の特訓を受けていた。パッと見たところ、20代前半の女性が半分。同じ村から一緒に参加した友だち同士もいた。

訓練生活はなかなか厳しい。日本語の授業は朝の7時25分から夕方の4時まで。夜の7時半から9時半までは宿題の時間だ。サボらないように罰金もある。たとえば宿題が不十分だと5万ドン(約280円)、日本語の通訳問題を1つ間違うごとに10万ドン(約560円)、授業の無断欠席は20万ドン(約1100円)、授業に1分遅刻すると20万ドン(約1100円)という具合だ。夢があるから乗り越えられるのだろう。

■日本での失踪率は40%?

日本では「搾取」と報道される外国人実習生の問題。日本での仕事が嫌になって失踪するベトナム人実習生の割合は実際、10~40%にも上るといわれる。ただ日本の一部の受け入れ先での“過酷な現実”はこのセンターでは伝えられていないため、訓練生の表情は驚くほど明るい。訪問した日本人とピースサインで一緒に写真を撮り、休み時間には日本について質問攻めをする。

一番多く聞かれたのは「鳥取はどんなところですか」「北海道(根室)は寒いですか」。「鳥取も根室も行ったことがない」と筆者が答えると、けげんな顔をする訓練生ら。鳥取と根室についてなぜ興味津々なのかといえば、このセンターからそれぞれ5人以上が、コクヨグループの鳥取工場と根室の漁業関係の仕事に派遣されるからだ。

「訓練生はどんなところに住むのか詳しく知らない。楽しそうに見えて、不安にも感じている」(日本語教師)

根室で働く予定の女性は「金閣寺に行ってみたい」と、携帯電話に保存している写真を嬉しそうに見せてくれた。たくさんのお金を稼ぐだけでなく、根室から京都に旅行できるような“楽しい生活”に胸を膨らませているのだ。根室の漁業関係の仕事は3Kとの評判にもかかわらず‥‥。

日本で“労働”するベトナム人実習生の数は増えている。2014年に日本が受け入れたのは約2万人。ベトナムにとっては台湾(約6万人)に次ぐ労働力の輸出先だ。このセンターは2014年に約60人、累計で約200人を日本に送り込んだ。

明るい笑顔が弾ける派遣前のベトナム人訓練生たち。しかし夢の国・日本に渡れば、賃金の不払いをはじめとする搾取にあうリスクに加え、円安で母国への送金額が目減りする現状も待ち受ける。センターで出会った訓練生のうち何人がいまの笑顔を失わず、故郷へ錦を飾れるのだろうか。

技能実習生教育訓練センターの外観。このセンターは民間企業が経営する。場所はベトナム・ハノイの中心部から車で30分ほどのところ。ハノイ市内には100カ所以上の訓練センターがあるといわれる

技能実習生教育訓練センターの外観。このセンターは民間企業が経営する。場所はベトナム・ハノイの中心部から車で30分ほどのところ。ハノイ市内には100カ所以上の訓練センターがあるといわれる

訓練生が寝る部屋。二段ベッドが並ぶ。マットもなく質素だ

訓練生が寝る部屋。二段ベッドが並ぶ。マットもなく質素だ

職場の環境を維持・改善するために日本で使うスローガン「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」も訓練生に教え込む。ベトナム語の訳もある。教室の外壁にポスターが貼っていた

職場の環境を維持・改善するために日本で使うスローガン「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」も訓練生に教え込む。ベトナム語の訳もある。教室の外壁にポスターが貼っていた