シェムリアップにある経営難の仕立屋、「生地の買い付け」は打開策になるのか?

カンボジア・シェムリアップのプサ・ルー(ルー市場)の一角で仕立屋を営むティダさん。一家を支えるために始めた。現在は3人きょうだいで経営するカンボジア・シェムリアップのプサ・ルー(ルー市場)の一角で仕立屋を営むティダさん。一家を支えるために始めた。現在は3人きょうだいで経営する

カンボジア・シェムリアップで一番大きな市場「プサ・ルー」の中に、カンボジアの伝統衣装パムールを専門にした仕立屋がある。店主は、32歳女性のティダさん。ただ服の仕立代だけでは経営が厳しいため、考えた打開策が、顧客が選べるバラエティ豊かな生地を独自で仕入れ、裁断し、伝統衣装を完成させるというワンストップの仕立屋を実現することだ。

ティダさんの店の売り上げは1カ月だいたい200〜300ドル(2万2000~3万3000円)。店の賃料1カ月75ドル(約8300円)を引くと、手元に残るのは125~225ドル(1万4000~2万5200円)。この金額を、経営に携わる3人のきょうだいで分けたら、1人当たりに換算してたったの5000円程度。これは、カンボジアの縫製業の最低賃金170ドル(約1万8700円)に遠く及ばない。「毎日ただ作っているだけ。それ以外に何もない」とティダさんは嘆く。

「仕立代だけでは収入アップは望めない。だから生地を仕入れて、プラスの収入を得たい」。ティダさんはこんなアイデアを温める。店頭に生地を置き、顧客がその中から気に入ったものを選び、それをもとに服を作る。これができれば、収入のチャネルが2つに増えて理想だ。

だが現実はなかなか難しい。最大のネックはお金がないこと。生地の値段はスカート1着分で5〜100ドル(550〜1万1000円)。100種類そろえるとなると最低でも6000ドル(約66万円)はかかる。ティダさんにとってはとてつもない大金だ。

ただ経営難に悩むティダさんの店にとって、投資額は大きいが、経営的なメリットも大きい。スカートを例にとると、仕立代だけだと1着分の稼ぎは10ドル(約1100円)程度。ところが生地を売って、裁断から一貫して手がけると25ドル(約2800円)に増える。生地の仕入れコストを差し引いても、稼ぎは2倍程度にアップするという。

カンボジアの伝統衣装は綿(コットン)の生地が使う。綿生地の生産工場の近くに店を構えれば、仕入れは少し簡単になる。「でもここ(プサ・ルー)を離れたら、お客さんに来てもらえなくなる」(ティダさん)。シェムリアップの伝統衣装の仕立屋はプサ・ルーに数十軒集まっており、カンボジア人の多くはプサ・ルーへ仕立てに行くからだ。ティダさんの悩みは深い。

幼いときに父を亡くし、高校に行けず、仕立屋になったティダさん。何の資格もない彼女にとって、自らの力で起業できる仕立屋は夢だった。伝統衣装を専門にしたのは、クメール正月(毎年4月)に伝統衣装を作る習慣がカンボジアにあるので、安定的に収入が得られると考えたから。ただその目論見は外れた。ティダさんはいま、別のやり方で、仕立屋として生き延びる道を探っているところだ。