「10日後に家を壊す」「その後は知らない」セブの発展を支えるスラムの犠牲

0909一場さん、住民と政府関係者の口論(一場)住民と政府関係者が口論する

政府による経済開発のために、長年住んでいた家が突然壊される。そして、移住先には何も用意されていない。フィリピン・セブ市内のスラムでは、こうした開発被害が後を絶たない。オスメーニャ墓地周辺でも、セブ市が、セルヒオ・オスメーニャ元大統領の妻の墓を中心とする遺産公園を設立するため、住民の意向を無視して強制移住を進めている。私は偶然、家が壊される現場に遭遇した。セブを訪れる日本人観光客が年間15万人に達する現在、楽しい思い出の裏に多くのスラム住民の犠牲があることをどれだけの日本人が知っているだろうか。強制移住の様子を、2人の住民と1人の政府関係者のリアルなコメントとともに伝えていく。

周りの住民が突然ざわつき始めた。すると、一台の黒い車が到着した。ハンマーを片手に、サングラスをかけた男たちが瞬く間に屋根に飛び乗り、住民の怒鳴り声や泣き声を浴びながら、手際よく破壊していく。唖然としていた私のところに、オスメーニャの住民であるリンダ・カナマさん(55歳)が近づいてきた。

取り壊される家

取り壊される家

「実は私もこの人たちに家を壊されたのよ。7月14日にセブ市の関係者が家に突然やってきてさ。何の情報もなかったものだから、驚いてね。そしたら『24日に家を壊すから、準備しておけ』だって。ここは教会の土地で、政府の土地ではないのに。強制移住のことをアキノ大統領は知らなくて、市長のマイケル・ラマが独断でやっているのよ。そしてハンマーを持った男たちが1時間もしないうちに私の家を破壊していったわ。私たちを動物のように追い払ってきて、怖くて、ただ私は家が壊れていくのを呆然と見ていたわ」

この話を終えると、彼女はその場を立ち去った。壊される住宅を撮影していた私は、一人の男性と目が合った。政府関係者のアーネル・クイジャノさん(42歳)だった。強制移住に対して強固な姿勢を取り続け、言い分を淡々と語ってくれた。

「ここは我々の土地だ。住民を追い払って、観光地化のために遺産公園を建設する。2カ月前から計画されていることで、住民とは7月に一度集会を開いた。何人か反対していたようだったが、彼らには選択肢はない。彼らは無料で住み着いているのだから、そんな権利はないはずだろう?バランガイ(フィリピンの最小行政区)キャプテンにも建設のことは了承を得ている。今壊しているのは9カ所目で、残り31世帯全て立ち退いてもらう。なぜ全部壊すかって?そりゃ数軒だけ壊したらアンフェアだからさ。いずれは彼らにはここから徒歩5分のところにあるロレガ地区に全員移住してもらう。土地は用意しているから、自分たちで家は建設してもらう。後は知らない」

気付けば、すでに3階の壁は全て取り外され、家の中の様子が丸見えになっていた。その時、リンダ・カナマさんが息子のリアンさん(33歳)と一緒に再び私の前に現れた。私はリアンさんと一緒に、移住先のロレガに行ってみた。移住後の生活についてリアンさんは、木材だけが積み重なった土地を前にして語り始めた。

「ここが俺たちの家だってさ。政府は自分たちで家を建てろって言うけど、そんなお金はどこにもないよ。こんな狭いところに家を建てるくらいなら、俺はオスメーニャの仮設住宅に住み続けたいね。しかも、ここロレガの人たちも俺らが住むことに対して、あまり好意的でないしね」

移住先の家を建てる土地

移住先の家を建てる土地

彼とロレガを回ること20分。オスメーニャに帰ってきたころには、家は支柱だけを残し、家の中の家具を運び出す作業に移っていた。住民の声に耳を傾けることなく、スラムの住民を犠牲に開発が進んでいく。私は取材を終え、オスメーニャを去ろうとした時には、また新たな家が壊され始めていた。