京都のNGO「NICCO」がマラウイで“トイレ革命”、排せつ物を肥料に変えて収穫2.5倍!

NICCOが普及させているエコサントイレNICCOが普及させているエコサントイレ

「エコサントイレ(し尿分離型環境衛生式トイレ)は排せつ物を分解し、それを肥料に変える。この肥料をまいたところ、トウモロコシの収穫量が2.5倍に増えた畑もある」

これは、京都に本部を置く国際協力NGO「日本国際民間協力会(NICCO)」で広報を担当する佐藤瞳氏が語ったもの。NICCOは2007年から14年12月までにマラウイで1052基、2014年からはケニアで60基、ミャンマーで20基のエコサントイレを設置している。

■建設コストは9000円

トウモロコシはマラウイの主食。トウモロコシの収穫量が増加したのはマラウイ中部のンコタコタ県の村だ。「エコサントイレを普及させる前は化学肥料を過剰に使っていたため、土地がやせていた。エコサン肥料を活用することで土地に栄養が増えた」と佐藤氏は説明する。

エコサントイレは、便と尿を異なる穴で処理する。トイレの床が地面から上がっているため、排せつ物が雨で外に流出せず、周辺の衛生環境に影響を与えない。便はトイレの下層部分にたまり、排便の都度灰をふりかける。そうすることで便がアルカリ化し、病原体が死滅するので、肥料として再利用できるようになる。また、尿を受ける穴はトイレの外につながっていて、タンクの中に保存。希釈した後に液肥として利用できる。

エコサントイレの材料は、主にレンガや木材。いずれも現地で調達可能な資材だ。建設コストはマラウイで約9000円、ケニアとミャンマーは約1万5000円(ミャンマーは土台建設のみ)だ。

「排せつ物由来の肥料を使用すれば、収穫量はアップし、また余った肥料も売れる。収入が増える」と佐藤氏。「排せつ物を肥料として利用することで、それまで主流だった化学肥料の使用も抑制できる。まさに一石三鳥のトイレだ」と胸を張る。

エコサントイレをNICCOが設置するのは、貧困層の間でいまだに屋外で排せつする習慣が根付いているためだ。「雨季になると排せつ物が村に流れ出す。汚い水に触れることは、感染症や下痢の原因となる。トイレの整備は重要」と佐藤氏は話す。

■コレラの発症なくなる

国連児童基金(UNICEF)の 2013年のデータによると、マラウイをはじめとする途上国では、下痢に起因する幼児死亡率(1~5歳)は16%と、肺炎(23%)に次いで2番目に多い。「エコサントイレを普及させたマラウイの村では、下痢の原因のひとつとなるコレラの発症がなくなった」(佐藤氏)と衛生面で実際に効果を上げている。

良いこと尽くしのエコサントイレだが、NICCOが普及に乗り出した当初は住民の反応は懐疑的だった。「排せつ物を肥料として使う文化がない分、定着させるには工夫した」と佐藤氏。村人が行き交う場所に、エコサン肥料を用いた試験的な畑を設置したり、衛生についてのワークショップで、分解された便の安全性を説明したりした。村の人たちに広めるのに約1年かかったという。

エコサントイレを普及させるうえでNICCOがこだわるのは「出口戦略」だ。現地の人たち自身が普及させ、管理することを重要視している。「現地の人たちの手でプロジェクトが回っていくことが大切。活動の1年目から、NICCOは3年でいなくなると住民に伝え、自立を促してきた」(佐藤氏)。ケニアでは建設費を住民が自らまかなえるよう、NICCOはローンシステムを導入。エコサントイレの設置で増えた収入から住民は、NICCOにローンを返済する形をとっている。

NICCOは2016年1月、エコサントイレの普及活動が評価され「第5回毎日地球未来賞」(毎日新聞社主催)を受賞した。食糧や水、環境の分野で問題解決に取り組む個人や団体を顕彰するものだ。「これからより多くの地域、多くの団体にエコサントイレによる、衛生改善や収入創出のシステムを広めていきたい」と佐藤氏は抱負を語る。

通常の畑(上)、エコサントイレの肥料を使用後の畑(下)

通常の畑(上)、エコサントイレの肥料を使用後の畑(下)