ネパールの高校進学者の9割は私立校出身、日本式教育の「夢小学校」を元留学生が故郷にオープン

「ネパール人の出稼ぎ労働者は1日12時間働く」とコープこうべ生活文化センターで訴えるライ氏。英紙はこれを「21世紀の近代奴隷制度」と書いた

ネパール東部のコタン郡で教育支援を行うNGO「YouMe Nepal」のシャラド・ライ代表(29)は3月6日、ネパールの教育問題をテーマに神戸市内で講演した。ライ氏は、日本に留学中の2012年にこのNGOを設立した。現在はソフトバンクに勤める。「故郷(コタン郡)に、きちんとした学校をたくさん建ててネパールに恩返しをしたい」と意気込みを語る。

■教師が3週間来ない!

ライ氏によると、ネパールで高校に進学する生徒の9割は私立校の出身。私立校のほうが質の高い教育を受けられるためだ。しかし学費が高いことから、国民のほとんどは公立校に通うのが実情。ライ氏は「公立校は教育の質が悪く、大学へ進学できない生徒が後を絶たない。教師が突然、2~3週間学校に来ないことすらある」と問題を指摘する。

高校に進学できない子どもの労働環境は深刻だ。「ネパールでは16歳から海外で出稼ぎ労働に行く」とライ氏。ネパール人労働者が多く働くカタールの砂漠では、日中の気温が40~45度に上る。気候の変化に適応できず、毎日平均4人のネパール人が亡くなっているという。

カタールとマレーシアで2年間警備員をしていた、ライ氏の友人は「毎日12時間、年365日働いた。休みはなかった」とライ氏に打ち明けたという。カタールで出稼ぎ労働に従事するネパール人の平均年収はたったの15万~20万円。これに対してカタール人の平均年収は1000万円以上と、50倍以上の所得格差がある。

■「時間厳守」を徹底!

「高校に進学する子どもが増えれば、中卒で出稼ぎに出る子どもが少なくなる」。ライ氏はYouMe Nepal設立前の2011年、日本で30万円の資金を集め、故郷のネパール東部コタン郡にYouMe school(夢小学校)を設立した。オープンしたこの私立校は「時間の厳守」や「児童による掃除」など日本のやり方を導入した。

学費は日本円にして1カ月約700円。他の私立校は1200円程度だという。ネパール人の平均月収は約3000円なので、500円の違いは想像以上に大きい。

夢小学校では2016年2月現在、138人の児童が学ぶ。だが児童たちが教育を受けられるのは小学校5年生まで。「高校生まで面倒を見なければ無責任。児童たちは再度、公立の学校に戻ってしまう」とライ氏は懸念する。2022年までに高校3年生まで教育を提供できるよう、学校の規模を拡大させたい考えだ。

ネパールでは一部の私立校を除き、授業はすべて母国語で行われる。だが夢小学校では英語が堪能な9人の教師を採用し、授業ではネパール語を除きすべて英語を使う。教科書も英語のものだ。ライ氏は「英語ができなければ、ネパールで仕事を見つけることは難しい。質の良い高校や大学に行くためにも、英語は欠かせない」と話す。

英語の授業では中退者が出るのではとの懸念に対しては、「児童が中退する原因は学校がケアを怠ること。夢小学校では児童の面倒をしっかり見ながら授業をしている」と説明する。2016年3月時点で、中退した児童は一人もいない。

同じ帽子をかぶって登校する夢小学校の児童たち。日本の紅白帽から着想を得たという

同じ帽子をかぶって登校する夢小学校の児童たち。日本の紅白帽から着想を得たという

■目標は「2020年までに6校」

「今後の目標は、2020年までにネパールで6つの学校を建て、3000人の児童を受け入れること」(ライ氏)。2つめの学校は2017年4月までにオープンしたいという。建設費用は1月から、500万円を目標にクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で募っている。

「2つめの夢小学校ではIT教育に力を入れたい。ネパールを挟むインドと中国に10年後、“シリコンバレー”ができる可能性が高いから。夢小学校ではまた、ネパールで今も続くカースト制度もなくしたい」

ネパールでは、高校を卒業した生徒の多くは海外に出稼ぎに出る。国に残る卒業生は教育やサービス業界の仕事に就くという。「国の産業は発達しておらず、国内に仕事はない。だから優秀な人材は海外の大学へ留学してしまう」とライ氏は頭脳流出を懸念する。

ライ氏は10歳の時、カトマンズで名門とされる国立の小中高一貫校に入学。ネパール政府が高校卒業時まで学費、食費、制服などすべて無料で提供してくれた。卒業後はネパール政府の奨学金をもらい、立命館アジア太平洋大学に留学。「ネパールが私を作ってくれた。支援を通し、国に恩返しがしたいという心を持つ若者を育てたい」と講演を締めくくった。