講師はフィリピン人ナース! 医療英語のオンラインスクール「メドトーク」

0205メドトークDSC04947 講師メドトークの英会話講師。看護師の資格をもつだけでなく、英会話講師としての訓練も受けている。セブで話される英語のほうが一般的に、マニラのそれよりもアクセントに癖が少ない

医療英語に特化したオンライン英会話スクールがある。フィリピン・セブに拠点を置く「メドトーク」だ。看護師の資格をもつ後藤陽氏が立ち上げた会社で、日本人の医師や看護師、薬剤師、臨床検査技師、ソーシャルワーカーなどをターゲットに、2012年6月からサービスを始めた。英会話講師を務めるのはフィリピン人看護師。後藤社長は「外国人の患者を診たり、海外の学会で発表したり、と日本の医療業界もこれまで以上に英語が必要になってきつつある」と語る。

■学費は日本の10分の1以下

メドトークのレッスンでは、スカイプを使って、日本の生徒とフィリピンの講師がマンツーマンで会話する。他のオンラインスクールとやり方は同じだ。

料金は1カ月7800円。この金額で、50分授業を1カ月12回(合計10時間)まで受けられる。後藤社長は「医療英語に特化しているから、正直、他のオンラインスクールよりちょっと高い。でも医療英語を日本で学ぶと3カ月で40万円ぐらいかかる。それと比べると安いのでは」と、10分の1以下のメリットを強調する。

メドトークのウリは価格だけではない。最大の強みは「質」だ。生徒の中には「海外の学会でプレゼンするから、それを練習したい」という医師もいる。そんな場合、4~5人いるメドトークの講師は全員が看護師資格をもつため、プレゼン内容を理解したうえで、伝わりやすい英語の話し方についてサポートできる。また、医療英語を実践的に学べるオリジナル教材も、初級者向けと上級者向けの2つを用意している。

サービス開始から8カ月、生徒の登録者(無料)数は170人と順調に増えている。このうち授業を実際に受けるのは1カ月数十人。リピート率も高く、講師の人柄も良いとの評判だ。

ただ事業はまだ採算に乗っていない。「目標は、2013年6月までに、月間ベースで黒字化させること」。1カ月当たり授業を受ける人が100人になれば達成できるという。

■収入ゼロのボランティアナースたち

英会話オンラインスクールは世界中に山ほどある。レッスンの予約機能を備えたウェブサイトさえ作れば、参入がさほど難しくないためだ。フィリピンだけで、日本人向けの英会話オンラインスクールは約150を数える。ただ、医療英語を専門にするのはメドトーク以外にない。

収益環境が厳しいのはわかっていたが、それでもメドトークの設立にこぎ着けた後藤社長の心の中にはかねて、ひとつの熱い思いがあった。

話は、後藤社長がフィリピンと出会った2010年にまでさかのぼる。大学病院に勤務していた後藤看護師(当時)は、3カ月休職し、セブの語学学校へ留学した。そのときに目の当たりにしたのが、厳しい境遇で働かされているフィリピン人看護師らの姿だった。

フィリピンには「ボランティアナース」という制度がある。これは、看護師の資格をもつにもかかわらず、登録料を支払って、経験を積むために看護師として無償で働くものだ。

「フィリピン政府はかつて、出稼ぎ政策の一環として看護師を米国などに送り込んできた。だが数年前から米国が徐々に、フィリピン人看護師を締め出し始めた。この余波をもろにかぶる形で、フィリピン国内では看護師が余るようになった」(後藤社長)

せっかく資格を取得しても、お金をもらえる仕事にありつけない状態。多くの看護師が、セブにたくさんあるコールセンターに職を求めるという現実がある。

フィリピン人看護師の専門性を生かせる雇用を作りたい、という信念から描いたビジネスプランが、医療英語を専門とする英会話オンラインスクール。後藤社長は、日本の病院で働きながら資金をため、1年ちょっとかけて、ウェブサイトを制作するなど準備した。

■医療を切り口にBOPビジネスも

後藤社長がセブに移住したのは2012年4月。住まいは、キッチンもないスタジオタイプ(ワンルーム)の部屋だ。学生時代はバックパッカーでアジアを回ったが、日本はおろか、途上国で起業するのはもちろん初めてだった。

立ち上げ当初は苦労の連続。一番悩まされたのは、講師の引き抜きだ。英会話講師は、現地の求人サイトを通して募集をかけると1度で100人以上の応募があるという。ところがせっかく人選して、教育しても、後藤社長の“熱い思い”とは裏腹に、看護師資格をもつ講師らは少しでも良い給料を求めて、他のスクールにあっさり移ってしまう。

医療英語の講師という仕事に意義をもってもらうのは難しいのかもしれないと考えた。打開策として「マネージャー」の枠で募集をかけ、マネージャーを採用したところ、現地スタッフを現地スタッフが管理する体制が機能するように。講師の入れ替わりが激減し、後藤社長は日本に営業に来られるようにもなった。

セブでの生活では、スラムが自宅のそばにあることもあって、物乞いや路上生活者を身近に感じると話す後藤社長。「メドトークのビジネスを成功に導くのが先決だが、将来は、医療を切り口に、セブの貧困層の生活を良くする取り組みをしたい」と見据える。

具体的なやり方は日々考えているところだが、BOP(Base of the Pyramid)ビジネスも選択肢のひとつだ。「メドトークで利益が出るようになれば、それを健康教育の分野に再投資したい。それによって少しでも貧困削減につながれば嬉しい」と目を輝かす。