【大洋州でGapYear(1)】仕事終わりはビールでなく「カバ」! フィジー流ストレス発散法

0711DSC_0900親族とカバを酌みかわすフィジアン(フィジー系フィジー人)

「ブラ!(こんにちは)」「調子はどう?」「どこ行くの? 気を付けてね」。ここはフィジー・ビチレブ島西部のナンディタウン。この街を歩くと、見知らぬ人が陽気に声をかけてくる。国際空港があるため観光客でにぎわうナンディはフィジーの玄関口だ。私がこの地に降り立ったのは1カ月ちょっと前の6月5日。フィジー系フィジー人(フィジアン)の家庭にホームステイしながら、英語学校に通っている。

フィジーでほぼ毎日目にするのが「カバ」という飲み物だ。ヤンゴナというコショウ科の木の根っこを粉末状にし、水で溶いたもの。アルコール成分はなし。茶色く濁っていて、お世辞にも美味しそうには見えない。だがフィジアンはカバを毎日のように仕事仲間や家族と酌み交わす。インド系フィジー人(インディアン)もフィジアンの溺愛ぶりには及ばないものの、カバが好きだ。

日本で居酒屋に行くように、フィジー人(フィジー系、インド系)が足を運ぶのが「カバショップ」だ。ナンディにある「ムアイラ・カバショップ」では、大きなバケツ一杯のカバで5フィジードル(約250円)。お代わりを注文する都度、店主が注ぎにくる。

店の常連客は「カバはビールの代わりにはならないね。ビールよりカバのほうが好きさ。毎日でも飲みたいよ」と話す。店主によると、1日50~70人の客が来て、なかには朝まで飲み続ける客もいるとのこと。フィジー人は仕事や日々のストレスをカバで発散しているようだ。

ナンディにあるカバショップ「ムアイラ・カバショップ」

ナンディにあるカバショップ「ムアイラ・カバショップ」

カバには鎮静作用がある。飲むほどに興奮するアルコールとは真逆で、飲めば飲むほど落ち着いていく。「ビールを飲めば興奮して、何を話したのか次の日に忘れてしまうだろう? でもカバは違う。家族や友人と会話をするときにはピッタリさ」とサラリーマンのマタワル・キカウさん(41)は話す。

私もカバを飲んでみた。カバを飲むときには作法がある。「ガラビ・ヨゴナ」と呼ばれる人がカバを酌む役割を担う。一緒にカバを飲む誰かが「タキ!」と発すれば、カバを飲み始める合図。親族や近所の人と飲む際は、若者がガラビ・ヨゴナを務めることが多く、年配の人から順にカバが振る舞われる。自分のもとにカバがくると、まずは手を1回叩き「ブラ!」と言う。一気に飲み干し、「ビナカ!(ありがとう)」と言い、器を主人に渡して、3回手を叩く。

カバの味は少し土っぽかった。飲んだ後に舌先がピリピリと痺れる。この独特の感じはフィジー人も同じようで、チェイサーとしてロリ(キャンディ)やクラッカーを食べて口直しをする。

面白いのは、フィジーではカバを飲みながら談笑するテレビ番組が毎週木曜日に放送されていること。番組名は「バティ・ニ・タノア」。タノアと呼ばれる、カバを入れる大きな器の周りに座るという意味だ。

この番組では男3人がタノアを囲みカバを酌み交わし、面白い話をする。フィジアン特有の大笑いが時々起きる。「カバプログラムというのよ。カバを飲みながらジョークや面白い話をするの」と話す主婦のツポウ・キカウさん(39)はこの番組が大のお気に入りだ。

カバは結婚式をはじめ地域の行事でも欠かせない存在。ビールをはじめカクテルやウィスキーなども売られているフィジーだが、フィジー人にとってカバはやはり別格のようだ。

出演者がただカバを飲む姿が放送されるテレビ番組。凝った演出もない

出演者がただカバを飲む姿が放送されるテレビ番組。凝った演出もない