東京外大がヤンゴンで開講する日本語講座、ミャンマー人学生に立ちはだかる“3つの壁”とは?

東京外大の日本語講座を受講するヤンゴン大学文学部のスーウィンモンさんたち。日常でも日本語を使って、日本人留学生と会話するという(ヤンゴン大学で)東京外大の日本語講座を受講するヤンゴン大学文学部のスーウィンモンさんたち。日常でも日本語を使って、日本人留学生と会話するという(ヤンゴン大学で)

ミャンマーで日本語を学ぶ若者が増えてきた。東京外国語大学は2015年から、ミャンマーの名門ヤンゴン大学と協定を結び、同大学の校舎で日本語講座を無料で開講している。だがミャンマー人学生にとって日本語を習得するのはそう簡単ではない。「漢字のややこしさ」「日本の情報不足」「単位にならないためインセンティブの欠如」という“3つの壁”があるからだ。

第一の壁である「漢字」について、東京外大から派遣された日本語教師の今井己知子氏は「音読みと訓読みどちらもある日本の漢字は、これまで漢字に触れてこなかった学生たちを混乱させている。彼らは音読みをなかなか覚えない」と指摘する。

この講座に出席するヤンゴン大学文学部の学生スーウィンモンさんも「漢字を書くのは非常に難しい」と、2年間学んだ日本語で答える。漢字圏でないミャンマーの人たちにとっては、複雑でまた膨大な量の漢字を覚えるのは至難の業だ。

第二の壁が、日本の情報がミャンマーにあまり入ってこないこと。「(日本語を教える以前に)ミャンマーでは日本の今の季節や北海道の存在すら説明しなければならない」と今井氏は苦労をにじませる。

講座の中で今井氏は、日本の文化を織り交ぜることを意識しているという。講座に参加する文学部の学生サエスーラインさんも「着物や相撲、侍といった日本の文化を授業から学んだ」と嬉しそうだ。

法務省の在留外国人統計によると、15年12月時点で日本に住むタイ人は約4万5000人で、ミャンマーはその3分の1の約1万4000人。この差からもわかるように、タイのほうが日本への親近感は深い。

今井氏は1998年5月~2011年2月と12年10月~16年4月の計16年間、タイ・バンコクで日本語を教えていた。「タイのほうが日本語を教えやすい」と今井氏は言う。日本語をミャンマー人に習得してもらうには同時に、ミャンマーと日本の交流も欠かせないといえそうだ。

第三の壁は、日本語講座を受講しても、単位が認められないこと。単位が与えられないことで日本語を勉強するためのモチベーションが下がる。今井氏も「単位が付与されないため、教師の方からテストの合格点を高く設定しても、学生のやる気につながらない」と難しさを口にする。

学習意欲に満ちあふれた学生もいる。日本語講座に通うインギンフワイさんは「将来日本に留学して、ミャンマーでそのスキルを生かしたい」と流暢な日本語で話す。だがインギンフワイさんのように日本に関心をもつ学生は多くないのが実情だ。

東京外大が提供する日本語講座はレベルが1から3に分けられ、今学期はレベル2と3が開講されている。受講者はそれぞれ19人と11人。単位にはならないが、この講座はヤンゴン大学以外の学生も受けられる。

日本語スピーチコンテストが16年8月26日に最大都市ヤンゴンで開催されるなど、日本語学習熱が高まりつつあるミャンマー。その半面、ミャンマーでの存在感は中国と韓国が日本の一歩先を行く。14年度の対ミャンマー直接投資額(FDI)は、日本の8600万ドル(約86億円)に対し、韓国はその3.5倍の3億ドル(約301億円)、中国は6倍以上の5億1700万ドル(約534億円)だ。

東京外大の日本語講座を経て、日本語の壁を超えたミャンマー人学生たちは、日本とミャンマーの懸け橋になるのだろうか。

ヤンゴン大学文学部の校舎。日本人留学生もいて、今井先生の日本語講座を手伝う

ヤンゴン大学文学部の校舎。日本人留学生もいて、今井先生の日本語講座を手伝う