「子どもに学ぶ楽しさを教えて教育を変えたい」、ヤンゴンの学生団体がミャンマーの未来を変える?!

MIVAの写真、ファイル_000寺子屋の子どもたちとMIVAのメンバー(MIVAのフェイスブックページから引用)

「『ミャンマーの教育制度が嫌い』と、大学に進学しない同級生が言っているのを聞いたとき、この国の教育を変えたいと思った。ミャンマーには課題が多いけど、教育は人々の心を一から変えていくことができる。教育でミャンマーを良くしたい」。そう真剣なまなざしで語るニラウィンラインさん(22歳)は、ヤンゴン教育大学に現在通う大学生。学生団体「Myanmer Initiative Volunteers Assosiation (MIVA)」の創設メンバーのひとりで、副代表を務める。

■寺子屋で美術を教える

MIVAは、日本人留学生1人とミャンマー人学生2人が2015年10月に創設した学生団体。ニラさんと、代表を務めるタンチョーさんの2人はそれぞれ、電気もない貧しい村の出身だ。子どものころから「教育に対する不満を抱えていた」ことがMIVAの設立につながった。

MIVAは現在、ヤンゴン市内の5つの大学から集まった約15人の学生が活動している。メンバーらは月に1回、ヤンゴン市南部にあるコンチャンゴン地区にある寺子屋に行き、美術や保健衛生、科学実験、本の読み聞かせ、英会話ゲームなど、通常の授業ではやらない情操教育をする。子どもたちに体験させ、学ぶ楽しさを教えるのがポイントだ。「実践型の教育の良いところは、子どもたちが勉強を楽しいと感じ、学ぶ意欲と学校に行く目的を見いだせるようになること」。ニラさんはいきいきとそう語る。

週に1度ミーティングを開催し、授業の準備をする。活動資金をメンバーの小遣いから出し合ったり、自分たちでパンフレットも作成するなど精力的に活動する。

MIVAはまた、ミャンマー北部にあり、貧しいとされるザガイン管区に図書館を開設するための資金を援助したり、ニラさんの出身地であるバゴー管区タエコ村にミャンマーで有名な作家を招いて講演会を開いたりした。

「MIVAの活動を始める前は、教師になることだけが将来の目標だった。でも今はMIVAを、外部から資金を得られるもっと大きな学生団体にするのが目標。自分の故郷であるバゴーや、それ以外にも複数の村や地域の教育に継続してアプローチできる団体にしたい」

ニラさんは現在、MIVAの活動範囲を拡大させるためのクラウドファンディングなどの方法を模索中だ。

MIVAの創設メンバーのひとり、ニラウィンラインさん。「点数が重視される環境は、他人より自分が良い点数を取ることに躍起になり、誰かのために何かをしようという心が育まれない。自分勝手な人が多くなってしまうのではないか」と言う

MIVAの創設メンバーのひとり、ニラウィンラインさん。「点数が重視される環境は、他人より自分が良い点数を取ることに躍起になり、誰かのために何かをしようという心が育まれない。自分勝手な人が多くなってしまうのではないか」と言う

■ミャンマー教育の3つの課題

ニラさんによると、ミャンマーの教育には3つの問題がある。

第一の問題点は、詰め込み型の教育を重視するあまり、実践的・能動的な授業が行われていないことだ。「教科書や学校の授業には、児童・生徒の興味をそそる工夫がない。暗記が得意でない子どもはドロップアウトしてしまう」とニラさんは言う。大和総研のデータでは、ミャンマーの小学校に通う子どもの約25%が、卒業する前に学校をやめる。そういった子どもたちは職にはつけず、格差の拡大につながる。

子どもたち自身が考える授業がないのもマイナスだ。ニラさんは「詰め込み型教育では、批判的・論理的な思考力が育まれない。受け身で、考える力をもたない子どもが増え続けてしまう」と指摘する。

第二の問題点は、地方の学校では、勉強すれば人生の選択肢が広がることを知る機会がないこと。地方ではどんな仕事があるのかといった情報が入ってこないため、将来の夢を思い描けない。その結果、勉強に対する優先度が下がり、ドロップアウトが増える。格差社会の助長につながる。

問題点の三つ目は、テストの点数だけで、進学できる大学や学部が決められる大学の入学制度。ミャンマーでは、高校卒業試験と大学入学試験を兼ねるセーダン試験があり、その点数で大学への進学可否と進学できる学部が決まる。「点数で進学先を振り分けられるので、自分が勉強したい専攻を自由に選ぶのが難しい」とニラさんは語る。

寺子屋での美術の授業中の様子

寺子屋での美術の授業中の様子(MIVAのフェイスブックページから引用)