【大洋州でGapYear (4)】郊外で高まる都市志向! フィジーにスラムが生まれる日はくるか

ナンディで交通整備会社に勤めるルーシーさん。交通渋滞緩和のために工事が進められているナンディで交通整備会社に勤めるルーシーさん。交通渋滞緩和のために工事が進められている

フィジーで都市志向が高まりを見せている。フィジアン(フィジー系フィジー人)とインディアン(インド系フィジー人)が共存するフィジーだが、今回の記事では国土の80%以上を所有するフィジアンの視点から、都市への移住志向について考えてみたい。

■村でできない経験ができる

「都市の生活の方が好きさ。畑仕事はもうしたくない」と話すのはビチレブ島東部のブニバイバイ村出身のサキ・ララギさん(24)。サキさんは現在、同じ島の西部にあるナンディ(国際空港がある街)に住み、米国系ファーストフード店「バーガーキング」で働く。

郊外から、首都スバやナンディ、ラウトカなどの都市に移住し、仕事に就くフィジアンは多い。職種も公務員から店員などさまざまだ。

「村の暮らしは良いよ。お金も全然かからないし、村人も優しい」と昔の生活を振り返るサキさん。「でも畑仕事はやりがいがないし、面白くない」。サキさんは2013年までブニバイバイ村で農業をしていたが、スバのホテルで2年間働いた後、バーガーキングに転職した。

「都市部では外国人と話したり、買い物を楽しんだり、村ではできないことがたくさん経験できる。頑張ってお金を稼げばいい服や車だって買える」。笑顔を見せるサキさんは都市での生活に満足しているようだ。

別の観点から都市のメリットを語るのは、ナンディのカフェで働くソロ・モンさん(26)だ。「都市部の教育は質が高い。村も悪くはないが閉鎖的だ」。ソロさんはフィジー北部のバヌアレブ島からナンディに移住した。「良い教育を受ければ、より良い仕事に就ける。社会や世界のことも知ることができるが、村では難しい」と話す。

■テレビ・車が欲しい

地域に根付いた生活を続けるフィジアンの村では、ほとんど生活費がかからない。食料のほとんどが畑の野菜や、海で獲れる魚。電気はソーラー発電、水は川の水を利用する。フィジー南部のカンダブ島ナロトゥ村で農業を営むジョサテキ・クルナワさん(29)の支出は1カ月約50フィジードル(2500円)だという。

だがジョサテキさんは言う。「お金はあればあるほど良い。欲しいものも買えるし、畑仕事もしなくて済むから」。村人のほとんどが畑を所有し、キャベツやキャッサバ、タロイモなどを育てる。大半は家族で食べるためのものだが、余った野菜を売ることで収入を得る。

農業のなかで最もお金になるのは、国民的飲料カバの原料ヤンゴナだ。育てるのに3~4年かかるが、1キログラム50フィジードル(約2500円)で取引される。「ヤンゴナはお金になる! 作るのも簡単だ。1000キロ分のヤンゴナをいま育てているよ。うまくいけば2019年ごろには5万フィジードル(約250万円)を稼げる」とジョサテキさんは満面の笑みだ。

村ではお金がほとんどかからないとはいえ、村人の中には都市部に働きに行く人や、大きなテレビや車をもつ人もいる。“魅力的なもの”を目の当たりにすると、お金や都市への憧れを強くする人が増えるのは自然なことだ。

カンダブ島ナロトゥ村で畑に向かう村人。村から畑までは歩いて3時間ほどかかる

カンダブ島ナロトゥ村で畑に向かう村人。村から畑までは歩いて3時間ほどかかる

■村には戻れない

多くのフィジアンは代々受け継がれる土地と村をもつが、親やそれ以前の世代が都市に移住したため、都市で生まれたフィジアンも多い。そうしたフィジアンは村について良く知らない。

ナンディの土産物屋で働くジョエリ・ニウラバウさん(21)もそのひとりだ。「生まれた時から都市にいる。自分の村のことは親から聞かされたくらいで良く知らない」と話す。村の生活のイメージを聞くと、「畑仕事はしんどそう。都市で働く方が楽しいし、生きやすいと思う」。お金を貯めてニュージーランドの大学に行くために、週6~7日アルバイトに精を出す。ジョエリさんは将来、ニウラバウ家が出身地とする村に引っ越す予定はないそうだ。

またナンディに住む教師、アイサケ・ライティラさん(24)は「都市に一度出て、良い教育を受け、仕事に就いたのにもかかわらず、村に戻って暮らすのはフィジアンにとって一種の『スティグマ(汚点、不名誉なレッテル』となる」と説明する。アイサケさんは6歳のとき、おばとナンディに移住し、いまでは年末年始だけ村へ帰る。「自分の子どもにも都市で暮らしてもらいたい」と話す。

■人口の53%が都市で暮らす

世界銀行の調査によると、フィジーの都市部に暮らす人口割合は2014年で53.4%。1990年の41.6%から10ポイント以上もアップした。都市人口は今後も増え続けるのは避けて通れそうにない。

しかし、のんびりとした性格のフィジアンは、勤勉なインディアンと比べると、都市での仕事に向いてないといえなくもない。ナンディでは、タクシーやバスのドライバーのほとんどはインディアン。飲食店や衣類店でもインディアンの店員の方が多いように感じる。

スバをはじめとする都市部では、「スクォーター」と呼ばれる、未所有地に違法的に暮らす人や、物ごいをするフィジアンが目につくようになってきた。国際通貨基金(IMF)によればフィジーの失業率は8.75%と対象105カ国中37番目に高い。オセアニアではオーストラリア(6.08%)やニュージーランド(5.75%)を抜き、最も高い数字だ。

都市部への流入に伴い、街では失業者が増えていく。村に戻りづらい要素がそこに加わることで、フィジーの都市にスラムが広がる日が来るかもしれない。