コロンビア国籍をもつベネズエラ難民、恵まれているけど母国に残した母が心配

デルシー・ビジャヌエバさん(右)とルース・インファンテさん(左)(コロンビア・メデジンで撮影)。ビジャヌエバさんは学生時代、反政府デモに参加してベネズエラ警察から追われる身となった経験もあるデルシー・ビジャヌエバさん(右)とルース・インファンテさん(左)(コロンビア・メデジンで撮影)。ビジャヌエバさんは学生時代、反政府デモに参加してベネズエラ警察から追われる身となった経験もある

ハイパーインフレを受け、2019年2月時点で340万人の難民を出すベネズエラ。うち117万人が隣国コロンビアへ逃れる。コロンビア第2の都市メデジンで18年から暮らすデルシー・ビジャヌエバさん(28)もそのひとりだ。ただ彼女はコロンビアとの二重国籍をもち、難民の中では恵まれているほう。だが母国に残した体調の悪い母とは満足に連絡もとれず、大きなストレスを抱える。

ビジャヌエバさんの両親はコロンビア人。だが彼女はベネズエラで育った。その理由はコロンビアの内戦だ。1980年代から90年代にかけて、多くのコロンビア人がベネズエラへ逃れた。彼女の両親もそうだった。

ところが今度は、インフレ率229万%(19年2月)とベネズエラで経済危機が深刻化するなか、ビジャヌエバさんは両親とは逆のルート、つまりベネズエラからコロンビアへ逃れることになった。

幸運なことにコロンビア国籍をもつビジャヌエバさん。「私は荷物をチェックされたくらいでスムーズに国境を越えられた」。国境を越えるには、出国、入国の両方でスタンプを押してもらわなければならない。長い列ができる。入国管理局は午後6時で閉まるため、その場で一夜を明かす人もいるという。コロンビアの国籍をもっていれば、長い列に並ぶ必要はなく、手続きは円滑だ。

コロンビアに来てから仕事もすぐに見つかったという。最初に移り住んだコロンビア中部のキンディオ州のアルメニア市では約3カ月、ウェイトレスとして働いた。1カ月前に、北西部のアンティオキア州のメデジン市に引っ越し、新しい仕事を探しているところだ。

コロンビア国籍をもたない他の難民と比べると、圧倒的に恵まれているといえるビジャヌエバさん。だが心配もある。それはベネズエラに残した母だ。「お母さんは体が悪い。感染症を防ぐ薬や鎮痛剤を買うためにたくさんお金が必要で、無理して働いている。楽をさせてあげたい」

ビジャヌエバさんにとって、家族はとても大事な存在。クリスマスや誕生日はもちろん、週末も一緒に食卓を囲んで家族と話すことが彼女の楽しみだった。今では電話をしても2分で切れてしまう。ベネズエラのインターネット環境が悪いためだ。「家族と満足に話もできないことが何よりもつらい」とビジャヌエバさんは涙ぐむ。

ビジャヌエバさんの母は、難民としてベネズエラに移住したとき一文無しだった。長い年月をかけて、ベネズエラに生活の基盤を築いた。「できることならお母さんも一緒に連れてきたかった。だけど60歳の今、またすべてを捨てて、ゼロからスタートするのは大変すぎる。つらいけど、お母さんはベネズエラの家で、政府からの配給と、私からの送金で暮らすことになった」(ビジャヌエバさん)

ビジャヌエバさんには幼なじみがいる。ルース・インファンテさん(29)だ。彼女もメデジンで暮らすが、コロンビア国籍はない。代わりに、コロンビア政府が発行する特別滞在許可証(PEP=Permiso Especial de Permananda)をもつ。これは、ベネズエラ難民に対して2年間の滞在と就労を認めるものだ。だが現実は厳しく、「PEPだと、雇ってもらえない。経営者らは、PEP所持者を雇うときの手続きに馴染みがなく、面倒くさがるからだ」とインファンテさんは説明する。

アンティオキア州のPEP保持者は2018年12月31日時点で6万9846人にのぼる。これは、コロンビア全土にいる「合法なベネズエラ難民」の約10%に相当する。アンティオキア州にいる「合法・非合法含むベネズエラ難民」はコロンビア全体の6.5%にすぎないことから、「アンティオキアはPEPの発行に積極的だ」とメデジン市のベネズエラ難民担当者は胸を張る。だが実際は合法でも仕事が見つからない。

ビジャヌエバさんは「コロンビア国籍は私を助けてくれる。でも今の生活はさみしい」。ビジャヌエバさんの将来の夢は、母に庭付きの小さな家をプレゼントすること。「彼女の長年の夢をかなえ、ゆっくりと老後が過ごせるようにしてあげたい。もう働かなくていいように支えたい」。ビジャヌエバさんは、自分のレストランとイベント会社を経営することを目指す。

「母国の状態がよくなって、国に帰れること。自分の国のことを知り尽くしたい」。彼女は、ベネズエラ東部にあるグランサバナやロライマ山、エンジェルフォールなどの絶景、先住民居住区などを訪れたいと言う。半生を国の危機に翻弄されながらも、家族と自分のため、将来への希望を失わない。