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フィジーで生活すると、「気候変動」のニュースを目にしない日はほとんどない。フィジー本島・ビチレブ島の中で気候変動の影響を特に受けているといわれるラ州に足を運んだ。そこで耳にした証言は、報道が大げさでもなんでもなく、フィジー人の生活が本当に脅かされているという悲しい現実だった。
■証言1:「できることは移住だけ」
「俺が小さいころ、村の端はもっと向こうの方だったよ」。ラ州の第1ナボラウ村で暮らすエブロニ・ボギさん(70)は遠い目をして海を見つめた。「この40年で村の端から50メートルほどが海の中に沈んだ。今では月に1度の満潮時に波が村まで入ってくる。子どものころはなかったことだ」
ナボラウ村は第1村と第2村に分かれており、エブロニさんの暮らす第1村は海岸沿いに位置する。海と村の間に砂浜はない。海岸沿いには、波の侵入を防ぐための高さ50センチメートルほどのブロックが積まれていたが、波で崩れ落ちてしまっている。
「サイクロンの規模は年々大きくなっている。だがこうした気象変動は、日本やアメリカなどの先進国が(地球を)開発してきた影響だろう。私たちにできるのは、移住先を考えることくらいだ」とエブロニさん。第1ナボラウ村の住民たちは第2村へ将来移住することも視野に入れているという。
■証言2:「魚が獲れなくなった」
「浅瀬で漁をするのは難しい。沖に出ないと満足に魚も獲れない」と話すのはラキラキ村で暮らす漁師、カリバティ・ナブキツさん(26)。
魚が獲れない理由のひとつが、フィジー史上最強のサイクロン「ウィンストン」がこの2月に上陸したことだ。フィジー全体で死者44人、家屋倒壊推定1万1500棟の被害を出したが、同時に海の中のサンゴ礁も破壊した。アメリカに本部を置く野生動物保護協会(WCS)と南太平洋大学の調査チームは、ウィンストンの影響で今後2年間はサンゴ礁に生息する魚は減少し、復興までに10年かかると予測する。
「漁師になったころと比べ、魚は少なく、小さくなった。ラ州には浅瀬での漁に生活を頼っている村もある。そういった村にとって魚の減少は深刻だ」と話すカリバティさん。週に3回、早朝から深夜まで沖へ漁に出る。一度の漁で稼げるのは約40フィジードル(約2000円)だ。
サイクロンの大型化・多発は気候変動の影響とされる。国連国際防災戦略事務局(UNISDR)によると、1996~2015年の20年間に自然災害で命を失った人は全世界で約135万人。台風やサイクロン、ハリケーンなどの暴風による犠牲者はうち23万9125人だ。自然災害の死者の9割は途上国で暮らす人たちという現実がある。
■証言3:「サイクロンで家がなくなった」
「サイクロンで家が壊されてしまった。だから今もテントの中で寝ているよ」と話すのはラキラキ村で暮らすイニア・ラタバカカさん(15)。イニアさんの家は2月、ウィンストンが破壊した。仮設住宅であるテントの大きさは8畳ほど。中にあるソファーがイニアさんの寝床だ。
ラキラキ村を歩くと、壊れた家屋の代わりにテントで生活をしている人を多く見かける。学校が破壊され、テントの中で授業やテストを受ける生徒もいる。
テント内で洗濯や料理をするメリタ・カタラウさん(25)は「8~9月の夜は冷え込んだわ(最低気温約19度)。早く家を建て替えたいけれど、政府の援助金がまだ来ないの」と話す。8カ月経った今でも復興には程遠い状態だ。
フィジー・ビチレブ島で目の当たりにした気候変動の現実。人の命を一瞬で奪う暴風だけを見ても、この10月にハイチを襲った「マシュー」(ロイター通信によれば10月9日時点で死者1000人以上)をはじめ、2013年の「ハイエン」(フィリピン、死者6200人以上)、2008年の「ナルギス」(ミャンマー、死者13万8366人)、1999年の「オリッサ」(インド、死者9843人)――など挙げればきりがない。
フィジーだけでなく、途上国のいたるところで同じような災害が起きている。日本からやってきた私にとってその影響は感じにくい。だが被害者の声を直接聞き、伝えることで、気候変動をより身近な問題へと変えていきたい。