斬新なビジネスアイデア満載! 日本の技術力生かすSDGsビジネス

ネパールでのパイロット計測結果を報告するクモノスコーポレーションの松田氏。「宗教上日本人が立ち入れない場所もあったり、人工衛星のデータ受信が悪く自己位置を認識するまで数日要したりした」と苦労も話した。ネパールでのパイロット計測結果を報告するクモノスコーポレーションの松田氏。「宗教上日本人が立ち入れない場所もあったり、人工衛星のデータ受信が悪く自己位置を認識するまで数日要したりした」と苦労も話した

3月に都内で行われた途上国での市場開拓を目指す企業の報告会。経済産業省による最大3000万円の補助を受けて途上国での事業展開を計画する中小企業7社が発表を行った。いずれの企業も強調したのは、いかに自らのビジネスが途上国の「持続可能な成長」に貢献しているかという点だ。これまで国連やODAの目標だと思われがちだった途上国の課題は、世界でSDGs(持続可能な開発目標)の達成が課題となり、国も後押しを始めたことで、優れた技術を持った中小企業が革新的なアイデアで市場に参入している。

高い測量技術を生かしてネパール地震の復興事業を進めようとしているのは、大阪府箕面市に本社がある「クモノスコーポレーション」だ。3次元レーザースキャナによる建造物の計測を得意とするこの会社は、熊本地震で被害を受けた熊本城の城壁を修復する際に、倒壊の状況を計測し、修復工事の計画作りにかかわった実績を、ネパールの地震復興に生かそうとしている。2015年に発生した地震だが、貴重な遺跡などの修復はまだ進んでいない。2017年行ったパイロット計測の内容を報告し、担当の松田由紀氏は、「今後の持続可能な街づくりのための観光業の振興に貢献したい」と強調した。

木材の圧縮技術で資源の再利用に大きく貢献しようとしているのは「パームホルツ」だ。同社は、台風で倒れた杉など、そのままでは脆くて使えない木材を集めてプラスチックのように圧縮し、フローリング材に活用する技術をもち、これまでは国内で事業を進めてきた。しかし4年ほど前、インドネシアの大学教授からの依頼を受けたのがきっかけで、木材圧縮技術をオイルパームの木(正確には葉)にも応用することに成功した。インドネシアではオイルパームは生産性維持のために25~30年ごとに植え替えのために伐採され、大量に廃棄されているのが現状だ。しかし、この圧縮技術を使えば、産業廃棄物を減らすだけではなく、新たなフローリング材として再利用することができる。代表の福山昌男氏は「まずは質について厳しい目を持つ日本の消費者にもオイルパーム製フローリング材を販売し、信頼を得たい」と話した。

遠隔医療の技術で南アフリカでの医療を救おうとしているのは、香川県高松市の「メロディインターナショナル」だ。着目したのは、妊娠満 22週以後の死産と生後 1週未満の早期新生児死亡率を足したものである「周産期死亡率」。日本の周産期死亡率は2.6/1000人(2014年)と世界で最も低いが、南アフリカの周産期死亡率は日本の約60倍だという。その大きな理由は、治療が必要な妊婦が村の診療所から中央病院に搬送されるまで数時間かかため、母子ともに病院に着く前に救急車内で亡くなってしまうからだ。同社は現在、フリーステート州で妊産婦を対象に遠隔医療を提供始めており、自宅からでも遠隔地にいる医師に診断してもらうことが可能となる。二ノ宮敬治CIO(最高情報責任者)は、「今後は現地の医師や看護師との連携を広げるとともに、周辺国でも展開したい」と語った。

他にも4社が報告を行ったが、これらの企業はいずれも経済産業省の補助事業である「飛び出せJapan!世界の成長マーケットへの展開支援補助金」に採択された企業だ。展開しようとしている事業がSDGs(持続可能な開発目標)にどれだけ貢献しているのかが評価項目の一つになっているのが大きな特徴で、費用は経済産業省が負担している。事務局を担っている開発コンサルティング会社「アイシーネット」の多田社長はこうした機運を評価していて、「かつて国連のMDGs(ミレニアム開発目標)で定義されていた途上国の社会課題は、貧困・飢餓・保健・教育・ジェンダーが主で、民間ではなくODAや国連がやることだと一般的に思われていたが、2015年に社会課題がSDGsという形で新たに定義しなおされたことで、産業革新・経済成長・街づくり・インフラなど様々な面から、民間企業が持つ技術で途上国の社会課題解決に寄与することが可能であると示された。すべての会社に社会課題解決型ビジネスを展開できる可能性がある」と話した。国の後押しも背景に、途上国に参入する高い技術力を誇る日本の中小企業の動きが今後も加速しそうだ。