第一人者が語るSDGsの本質と「行動の10年」で日本がするべきこと~SDGs書籍の著者に聞く第1回~

「SDGs書籍の著者に聞く」と題したリレー形式のオンラインセミナー(主催:朝日新聞社/共催:SDGsジャパン)が2月4日に始まった。持続可能な開発目標(SDGs)に関する書籍の著者が登壇し、自著で最も伝えたかったことや、SDGsの現状や課題などについて話す。全6回で、モデレーターを務めるのはSDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)の長島美紀さんと朝日新聞社の藤谷健さん。

第1回のテーマは「政府・政策」だ。外務省の南博さん(広報外交担当日本政府代表)、SDGsジャパンの稲場雅紀さん(政策担当顧問)、慶応大学大学院教授の蟹江憲史さんが登壇した。いずれもSDGsの誕生するプロセスに政府、市民社会、研究者の立場から携わってきた国内の第一人者だ。SDGsの本質、SDGsと新型コロナの関係性、そしてSDGsの目標年である2030年までに日本が取り組むべきことについて、およそ400人の視聴者へ向け意見を述べた。

貧困と気候変動を一体にとらえる

まず話題に上がったのはSDGsの成り立ちについてだ。2012~2015年に国連で交渉にあたった南さんは「SDGsの起源はミレニアム開発目標(MDGs)と持続可能な開発の考え方にある」と説明。これは、SDGs成立以前は別々にとらえられていた貧困と気候変動をひとつのものとして考え、取り組むことを意味しているという。

なぜ二つの問題を一体としてとらえる必要があるのか。稲場さんは、「エコロジカル・フットプリント」の考え方をもとに現在の世界の非効率さを指摘する。エコロジカル・フットプリントとは、人間の消費活動が地球へ与える負荷を測る指標だ。地球が現在のまま持続できる資源の消費量を「地球1個分」とする。

世界自然保護基金(WWF)によると、現在の世界全体の消費量は地球1.69個分にあたる。将来世代が使うはずの地球0.69個分の資源を現在世代の私たちが奪っているというのだ。特に問題なのが、地球1.69個分の資源のほとんどが欧米など一部の人によって消費されており、経済格差が生じていること。世界の非効率と不平等を解消し、地球1個分の暮らしへと変革することこそがSDGs最大の目的だ。

登壇者3人の意見に共通するのが、「SDGsは新型コロナの危機を克服するための指針になりうる」という点だ。医療・保健、社会、経済などあらゆる分野に新型コロナの影響が及び、ほころびかけている現状は、まさに「持続可能性の危機」であり、新型コロナ危機を打開するため、いずれも「今だからこそSDGsに向き合う必要がある」と強調する。

行動の10年」で政府が取り組むべきこと

SDGsの達成状況には進展がみられるものの、取り組みのペース、規模ともに2030年の目標達成には不十分なのが現状だ。そのため国際社会は2020年から2030年までの期間を「行動の10年」と位置づけている。だがその矢先に起きた新型コロナの爆発的感染が、とりわけ途上国の取り組みを後退させてしまった。

視聴者から多くの質問がよせられたのがこの「行動の10年」で日本が取り組むべきことについてだ。これに対し蟹江さんは、政府に対し以下の三つを提案する。

一つめには、日本はまだ独自指標を策定していないことを踏まえ、国内の状況に見合った指標の策定を挙げた。SDGsと2030アジェンダは進捗を測るためのグローバル指標を設定したうえで、各国・地域がグローバル指標を補完する独自の指標を定めることとしている。

二つめが、現状把握と活動事例集めのための仕組みづくりだ。一つめで指摘した独自の指標を定めるためにはまず、現状がどうなっているのかについて情報収集することが欠かせない。そして現状把握と同時によい変革の事例を収集することがカギとなる。「新型コロナの影響で変化せざるをえない今だからこそ、変革のチャンスもあるはず」と蟹江さんは力説する。

そして三つめが、日本における持続可能な社会づくりの指針を示す基本法の策定だ。この点については意見が分かれた。南さんは「法律化することによってSDGs本来の柔軟性を欠く可能性がある」と懸念する。一方で稲場さんは「基本法制定のプロセスで、持続可能な社会をどういう形で日本の国是とするのか、立法府を巻き込んで議論することが重要」との考えを示した。

日本はゴール16.7のモデルを示せる 

国際社会において日本ができることについて稲場さんが挙げるのがSDGsのモデルの提示だ。「市民が中心となってまちづくりの条例案をまとめ、実際に条例改正に至った事例が岡山市にある。この事例を取材した際、NPOが課題に直面する市民と行政のつなぎ役となり協働が生まれたことを知った。SDGsのゴール16のなかの『ターゲット7 参加型意思決定の確保』の実践だと思った。こうした実践事例を他の国や地域でも普遍的に活用できる方法に落とし込み、モデルとして提示することが日本の役割、というのが稲場さんの意見だ。

また私たち一人ひとりができることについて南さんは、自分の身の回りにある課題に注目することを提案する。「SDGsの重要なメッセージは、タコつぼ的発想を打破することと、課題にパートナーシップで取り組むこと。身近な問題の解決をスタート地点に、その解決策が他の分野とどうつながり、世界の問題とどうかかわっているのか視野を広げて考えることが重要だ」と語った。(朝日新聞「2030 SDGsで変える」から転載)

登壇者によるSDGs書籍はこちら▼

『SDGs―危機の時代の羅針盤』南博、稲場雅紀(岩波新書、2020年11月、820円+税)
『SDGs(持続可能な開発目標)』蟹江憲史(中公新書、2020年8月、920円+税)

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