JICAに「ロヒンギャ専門チームを!」、聖心女子大の大橋正明教授が提案

ロヒンギャ難民キャンプ現地視察報告会で講演する聖心女子大学グローバル共生研究所の大橋正明所長ロヒンギャ難民キャンプ現地視察報告会で講演する聖心女子大学グローバル共生研究所の大橋正明所長

聖心女子大学グローバル共生研究所の大橋正明所長(文学部人間関係学科教授)は、同研究所が都内で主催したロヒンギャ難民キャンプ現地視察報告会に登壇した。このなかで、ミャンマーからバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の支援方法について「JICA(国際協力機構)にはロヒンギャ専門の支援体制がない。支援の長期化を見据えて、ロヒンギャ担当チームを作る必要がある」と訴えた。この報告会は、バングラデシュ・コックスバザール県のロヒンギャ難民キャンプを大橋所長が5月に視察したことを受けて開かれた。

■JICAの支援は不十分?

ロヒンギャ難民キャンプの生活水準を向上させるためJICAが現在推進する分野は3つある。

1つめが給水だ。安全な水へのアクセスを確保するためにJICAは、地下水の調査、井戸の掘削やその技術指導をしている。だが難民キャンプの給水設備は不十分なレベルのまま。大橋所長は「現在も多くの女性や子どもが水くみという重労働を強いられている」と懸念する。

2つめは、ロヒンギャ難民を受け入れる自治体(ホストコミュニティ)への支援だ。JICAは、ミャンマーと国境を接するコックスバザール県のウキア郡やテクナフ郡などのホストコミュニティへ、それぞれ1500万タカ(2000万円)を援助した。これに加えて、学校や病院など小規模施設の整備も進める。難民キャンプのこうした施設は造りが質素で、雨期の大雨やサイクロンによる土砂崩れが危惧されており、対応が急務だ。

3つめは保健。JICAは2018年1月、コックスバザール県病院へ、ベッドや生化学自動分析装置(血液や尿などから、糖やコレステロール、タンパクなどを測定する装置)、消毒液、マスク、医師や看護師が着るベストなどを供与した。難民キャンプは衛生環境が悪く、感染症が蔓延しやすいため、保健分野での課題は山積みだ。

■「タミルのトラ」になる危険も

ロヒンギャは1970年代後半以降、ビルマ(ミャンマー)政府から迫害され、アジア各地に逃れた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が2017年10月に更新したデータによると、ロヒンギャ難民はバングラデシュに100万人、パキスタンに35万人、サウジアラビアに20万人、マレーシアに15万人、インドに4万人、アラブ首長国連邦(UAE)に1万人いる。

大橋所長は、ロヒンギャの状況について、ロヒンギャのテロ組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」は、スリランカでかつて武力闘争を展開したタミル人のテロ組織「タミル・イーラム解放のトラ」と似ていると指摘する。「ロヒンギャはビルマ国内でも国外でも、酷い人権侵害を受け続けてきた。この状況が継続、悪化すれば、スリランカのタミル人が武力抗争を起こしたように、ロヒンギャもビルマで闘争を起こしかねない。世界はこのことにもっと注意を払うべきだ」

大橋所長が危惧するのは、ロヒンギャ問題に対する日本政府の関心の低さだ。「日本はアジアの人道支援大国として、中国やビルマに配慮することなく、ロヒンギャを支援しなくてはならない。援助額は現在の倍額にあたる年間100億円は必要だろう。JICAは、ロヒンギャ問題に特化した日本人専門家の育成と支援体制の整備を急ぐ必要がある」と訴えた。