NGOに転職した超エリートインド人、給料まさかの95%ダウンも貧しい子どもたちに教育を届けたい!

インド・プネーのドアステップスクールで楽しそうに授業を受ける子どもたち。運営資金を集めるのがロヒットさんの仕事だインド・プネーのドアステップスクールで楽しそうに授業を受ける子どもたち。運営資金を集めるのがロヒットさんの仕事だ

インドの名門大学を出て、多国籍企業で働いていた50代の男性ロヒット・ヴァーレカーさんは2月、同国西部の街プネーで貧しい子どもたちへの教育をサポートするNGO「ドアステップスクール」に転職した。担当はファンドレイジング(資金調達)。地元の建設会社を中心に寄付を募る日々を送る。ロヒットさんは言う。「子どもはみんな天才だ。インドでも多くの子どもが教育を受けられるようにしたい」

ロヒットさんの半生は誰もが羨むものだ。インド最大の都市ムンバイの裕福な家庭に生まれた。インド中南部のハイデラバードにある国立工科大学に進学し、機械工学を専攻。卒業後は、ロボットの製造、販売を手がける多国籍企業グーデルのプネー支店でセールス&マーケティング担当として働く。一男一女の子どもにも恵まれ、幸せな生活を送っていた。

人生が大きく変わったのは、ドアステップスクールで週末にボランティアをしていた時だ。52歳だった。元気いっぱいに本を朗読したり、何を教えてもすぐ吸収したりする子どもたちを見てロヒットさんは思った。「子どもはみんな天才だ。教育を受けられるようになれば、誰もが自分の未来を切り開いていける」

ロヒットさんは30年勤めたグーデルに辞表を提出。ドアステップスクールに転職した。給料は95%もダウンした。それでも多くの子どもに教育を届けたいとの強い思いがあった。「給料は激減したけれど、長男も今年就職した。セールス&マーケティングのコンサルをフリーランスでやっていて、そっちで稼いでいる。重要なのは稼ぐことではない。自分のスピリッツをどこに傾けるかだ」

ドアステップスクールは、コンドミニアムなどの建設現場で働く日雇い労働者の子どもたちに学習サポートをしている。教室も建設現場近くに構える。

ドアステップスクールの資金調達戦略でユニークなのは、支援対象となる子どもの親が働く建設会社から寄付を募っていることだ。建設会社の社会的責任(CSR)ともいえる労働者家族に対する福利厚生をドアステップスクールが請け負う形だ。

ロヒットさんの毎日の仕事は、ドステップスクールが支援する子どもの数や成績向上などの実績を報告書にまとめ、寄付を得るために建設会社へ営業に行くこと。プネーの大手不動産開発会社プリスティンもドナー(寄付者)のひとつだ。

30年に及ぶグーデルでの勤務経験は資金調達でも生きているとロヒットさん。建設会社に納得してもらうため、ドアステップスクールの成果を示すデータの整理の仕方、見せ方には特に力を入れる。その甲斐あって、ロヒットさんは年間約4000万ルピー(約6400万円)の資金を集めてくる。

ただ悩みも尽きない。「建設会社とドナー契約を交わしても、期日通りに払ってくれるところは少ない。根気強く会社に通わなければならない」

ロヒットさんが集めた資金は、ドアステップスクールが雇う教師の人件費、子どもたちに無料で配るペンやノート代、ドアステップスクールが作るオリジナルの絵本の印刷代などに使う。「もっとお金を集めて、子どもたちの学ぶ機会を増やしたい」。エリートキャリアをなげうって、草の根の教育支援をするロヒットさんの挑戦は続く。

インド・プネーのNGOドアステップスクールで資金調達を担当するロヒットさん。エリート街道まっしぐらだったが、50歳を過ぎてNGOの世界に飛び込んだ

インド・プネーのNGOドアステップスクールで資金調達を担当するロヒットさん。エリート街道まっしぐらだったが、50歳を過ぎてNGOの世界に飛び込んだ