バングラ農村女性がCGデザイナーに! 三菱商事とNGOシャプラニールがフォトショップ研修

国際協力NGOシャプラニールが主催したイベント「NGOと企業の協働の可能性」に登壇した三菱商事の片田聡前ダッカ所長(現在は関西支社生活産業第二部長兼海外タイヤチームリーダー)

国際協力NGOのシャプラニール=市民による海外協力の会は11月24日、イベント「NGOと企業の協働の可能性」を開催し、バングラデシュで三菱商事と協働したコンピュータグラフィック(CG)デザイン研修事業の紹介をした。CGデザイン研修は、農村の少女約10人が3カ月間、首都ダッカに泊まりこんで、デザインの基本やイラストレーター、フォトショップなどのソフトウェアの使い方を学ぶもの。三菱商事の片田聡前ダッカ所長は「CGデザインを学べば、村に帰ってからオンラインで仕事を請け負うことができるし、CGデザインを村人に教えることもできる」と研修の意義を強調する。

■村でもできる!

CGデザイン研修は、政府系職業訓練校BITACの研修事業を請け負っていたマスクインテリア社のアリフ氏の発案だ。アリフ氏は、農村の女性たちがダッカで研修を受けても村に帰ったら仕事がなく、働こうと思ったら都市に行くしかない現状を憂慮。CGデザインの仕事なら、ネットワークさえあれば村でも仕事ができるのではないかと考えた。アリフ氏の話を聞いた片田氏は、三菱商事のCSR(企業の社会的責任)事業としてCGデザイン研修を立ち上げることを決めた。

三菱商事はCSR予算の中から364万タカ(約500万円)を拠出し、PCなどの購入費や受講生のダッカ滞在費にあてる。シャプラニールはバングラデシュのパートナー団体と協力して受講生の募集、選考、スケジュール調整、全体の管理を担当。マスクインテリア社はCGデザイン研修を運営する。片田氏は「三菱商事は資金提供や研修のための環境整備はできるが、農村から受講生を募集して、ダッカまで来てもらうというコーディネートは難しかった。そこで、以前に協業したことがあるシャプラニールに声をかけた」と言う。

研修は2017年1月から2018年12月まで8回の計画で、すでに3回28人が修了し、現在4回目の7人が受講中だ。修了生の中には、現地NGOに就職してパンフレットやバナーの作成にデザイン技術を生かす女性や、村の女の子たちに有償でCGデザインを教える女性、コンピュータを使ったデータエントリーの仕事に就いた女性もいる。受講生の一人は「今まで村の外に出たことがなく、ダッカに来たときは道路の渡り方も分からなかった。CGデザイン研修は私の人生のドアを開いてくれた」と話している。

研修で期待できる効果は女性の就労や貧困削減だけではない。「農村では男尊女卑の傾向が強いが、女性がデザイン技術を身につけることで、女性の自立や地位向上にもつながる」とシャプラニールの菅原伸忠ダッカ事務所長は強調する。受講生の一人は「人から何かを求められて、自分がそれを提供できるようになったことが嬉しい」と語る。

CSRがきっかけに

このCGデザイン研修を、三菱商事は同社のサポートが終わった後も継続できるようにしたい考えだ。そのためにはマスクインテリア社にとって研修事業から利益を生むことが不可欠。片田氏は「経験を積んでさらにスキルアップした修了生が将来、マスクインテリア社に戻ってきて、デザイナーとして活躍してくれれば、マスクインテリア社も事業を拡大できる可能性がある」と言う。

CGデザイン研修が定期的に開かれるようになれば、農村の女性たちにとって社会進出への道筋となる。修了生がCGデザインを農村の女性に教えられれば、彼女たちは上京せずに技術を学べる。その結果、手に職を持つ女性が増えることも期待できる。

菅原氏は「バングラデシュのネットワーク環境が整ってくれば、都市から農村に仕事をアウトソースするケースも出てくるのではないか。その時にはアウトソースのための起業家支援もしていきたい」と今後の展望を話す。

CSR活動の一環として三菱商事はこれまで、バングラデシュで孤児院の改装やバスターミナルの地下道の美化などを手掛けてきた。片田氏は「成果はあったが、単発の事業で終わってしまった。CGデザイン研修事業では、CSRをきっかけに持続可能な貢献できれば」と理想を語る。

シャプラニールの菅原伸忠ダッカ事務所長

シャプラニールの菅原伸忠ダッカ事務所長