バングラのロヒンギャ難民キャンプでピースウィンズが経営するクリニックが人気! 出産する妊婦が4倍増

バングラデシュ・コックスバザール県のロヒンギャ難民キャンプでピースウィンズ・ジャパンが経営するクリニックで出産したロヒンギャ女性たち(©Peace Winds Japan)バングラデシュ・コックスバザール県のロヒンギャ難民キャンプでピースウィンズ・ジャパンが経営するクリニックで出産したロヒンギャ女性たち(©Peace Winds Japan)

国際協力NGOピースウィンズ・ジャパン(PWJ)がバングラデシュ最南端のコックスバザール県ハキンパラ地区のロヒンギャ難民キャンプ14で運営するクリニックで出産する女性が増えている。その数はこの1年で週1人から週3~4人になった。利用者が増加したのは、自宅出産が当たり前になっているロヒンギャの女性たちへの地道な啓発活動が奏功したためだ。

キャンプ14でクリニックが開業したのは2018年1月。PWJが資金の提供と各種調整業務を、地元医療団体のダッカコミュニティホスピタルトラスト(DCHT)が医療行為を担う。クリニックが診療の対象とするのは、ミャンマー西部から逃れてきたロヒンギャ難民だけでなく、近くに住むバングラデシュ人も含む。

PWJが診療所での出産を勧めるのは、母子が感染症などにかかるのを防ぐためだ。キャンプ14では自宅出産を選ぶ妊婦のほうが多い。だが清潔なタオルやフィルタを通した水のお湯を自宅で用意することは難しく、診療所での出産よりも死亡や感染症のリスクが高い。しかし国連児童基金(UNICEF)によると、2017年9月以降にバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプで誕生した子どものうち、保健施設で母が出産したのはわずか18%にとどまる。

キャンプ14は山を切り崩してつくられたため、雨季には舗装されていない道がドロドロになる。妊婦にとっては移動するのも危険だ。「ただでさえ、クリニックにやってくる患者の多くが泥道で足をとられ、骨折や皮膚炎になったりしている。妊婦が出産間近に移動するのは、泥の中を歩かなくてもいいように籠で運んでもらうなど大仕事。でもそんな移動リスクを考えても、衛生的な診療所で出産したほうが安全だ」(PWJバングラデシュ駐在員の白井悠さん)

こうした困難があるにもかかわらず、クリニックの出産件数は開業後、着実に増えている。今や週3~4件になったことについて白井さんは「クリニックでの出産の方が良いという意識に変わってきたのかな。啓発活動の効果が出始めたと思っている」と自信をのぞかせる。

PWJとDCHTはこれまで、クリニックで出産する安全性について地道な啓発活動を続けてきた。移動診療先での啓発活動だけでなく、なかなか外に出られない妊婦の自宅も訪問し、クリニックでの出産を促す。出産時だけでなく、産前・産後の検診や血液検査など、産前に医師とかかわることにも意義がある。必要があれば栄養強化ビスケットや干米などの栄養補助食品を配ることで、少しでも妊婦の栄養状態を良くすることが、産後の母子の健康につながるからだ。

PWJが経営するクリニックは11月から、ロヒンギャ難民らを対象に予防接種を打つことをスタートした。5歳未満児に打つすべてのワクチン(日本とほぼ同様の内容)を扱う。「必要な人に必要なサポートをしたい」。PWJとDCHTが目標として掲げる医療に一歩ずつ近づいている。