日本の油吸着材「マジックファイバー」がモーリシャスを救う! わかしおから流出した重油を回収

重油を吸収した後のマジックファイバー。重油が染み込んで真っ黒になっている。マジックファイバーを作るエム・テックスは、モーリシャスなどでの緊急対応が評価され、「災害対応支援環境大臣表彰」を3月26日に受賞した重油を吸収した後のマジックファイバー。重油が染み込んで真っ黒になっている。マジックファイバーを作るエム・テックスは、モーリシャスなどでの緊急対応が評価され、「災害対応支援環境大臣表彰」を3月26日に受賞した

モーリシャスの近海で2020年7月に大型貨物船「わかしお」が座礁し、海に流出したおよそ1000トンの重油を回収する注目の製品がある。繊維ベンチャーのエム・テックス(東京都大田区)が生産する「マジックファイバー」だ。同社社長室の竹ノ下友基室長は「わかしおから流出し、マングローブに付着した重油をマジックファイバーでしっかり取れると検証できた」と自信をのぞかせる。

油しか吸わない!

マジックファイバーの見た目は、綿のようにフワフワで真っ白。30センチのシート状で、重さはわずか20グラムほどだ。これを油の上に載せると、約1リットルの油を吸い込み、真っ黒になる。

最大の強みは、油しか吸わないこと。他社の油吸着材は油と同時に水も吸ってしまう。だがマジックファイバーは超極細の繊維を使うことで、これまでの不可能を可能にした。量産できることもエム・テックスが誇る技術だ。

モーリシャス沖に流れ出た重油の回収でマジックファイバーが初めて使われたのは2020年12月。マングローブに付着した重油を回収できるかどうかを、現地のNGOが検証した。

エム・テックスは日本から遠隔でNGOをサポート。画面越しに作業をモニタリングしたり、指示を出したりした。当時の苦労を竹ノ下氏はこう語る。

「マングローブでの作業は初めて。どうすれば木を傷つけずに油を回収できるかが難しかった。そのうえ遠隔で指示を出さないといけない。なので、動画をつなぎ、作業員に少しだけ手を動かしてもらい、その結果を見て、という地道なやり取りを繰り返した」

12月の検証で、マジックファイバーでマングローブについた重油を問題なく回収できることが確認できた。

だが、流出した重油をすべて回収するには、マジックファイバーが足りない。エム・テックスがこれまでに用意したのは5万1840枚。これで回収できるのは約5万1840リットルの油。事故で流出した重油は1000トン(約122万リットル)なので、4%程度だ。

作業は5月まで延期

ただマングローブをきれいにする作業は、実はほとんど進んでいない。急がないと、根から重油が入り込んで、枯れてしまうにもかかわらず、だ。

大きな要因は、わかしおの解体作業の遅れだ。現場にまだ残っている船体の半分は崩壊のおそれがあり、すぐに解体しなければならない。もし崩れてしまえば、周辺の海域でほかの事故につながる可能性があるからだ。だが新型コロナウイルスの影響で、国外から解体業者が入れず、作業が進まない。

わかしおが崩壊すれば、津波を引き起こすおそれもある。そのためマングローブへの立ち入りも当面は禁止されている。

竹ノ下氏は「マジックファイバーの有効性が12月に確認できてから、すぐに作業を進める必要があった。だが今は5月ごろまで延期となった」と、思うように作業が進まないジレンマを語る。

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