バンコク北部に「子育てしやすい女子刑務所」があった、受刑者なのに1年は労働しなくていい!

タイ・バンコク北部にある中央女子刑務所を訪問したganas記者団。後列右から3番目が、刑務所内の母親に絵本の読み聞かせ指導をするNGOブックス・フォー・チルドレンの創設者のひとりで代表のルワンサック・ピンプラッティーさん

女性の受刑者・被勾留者と刑務所内で生まれた子どもが一緒に過ごせる刑務所・刑事施設がある。タイ・バンコク北部の中央女子刑務所だ。驚くことに、刑務所内で母になった女性受刑者・被勾留者は1年間労働を免除される。しかし1歳を迎えると子どもは刑務所を出なくてはならない。

子育てのために労働を免除された母は1年間、1日のほとんどを子どもと過ごす。授乳と水浴びの時間は、朝7時20分~8時と11時半~午後1時の2回。それ以外の時間は、子どもは刑務所内にある託児所にいる。午後3時半になると、母は子どもを、85人の大部屋へ連れて帰り、朝まで一緒に眠る。

母が食事をしたり、家族などと面会したりするときは、託児所で他の母親や、育児の補助を担当する受刑者・被勾留者が子どもの面倒をみる。ベビーシッターとなる受刑者・被勾留者には、育児経験者や育児の補助を希望した者が選ばれる。年に2回、赤十字社が派遣する看護師から、子育て方法などについて研修を受けなければならない。このほか、外部から看護師が24時間駐在するなど、子どもが具合を悪くしても対応できる体制を整える。

中央女子刑務所では現在、合計17人の乳児、20人の妊婦がいる。刑務所で生まれた子どもたちの未来を案じて活動するのが、タイのNGOブックス・フォー・チルドレン(BFC)だ。BFCはすべての母・妊婦を対象に、絵本の読み聞かせのやり方をワークショップ形式で教える。

そのやり方はユニークだ。1歳以下の子どもでも楽しめるように、絵本の内容を歌詞として歌ったり、簡単なダンスをしたりするのが特徴だ。BFCは、絵本をプレゼントしたり、子どものおもちゃの作り方まで母親に教える。

中央女子刑務所で受刑者・被勾留者は、大部屋の寝室で寝る。その中で、子育て中の母と妊婦は同じエリアにかたまっている。母のひとりは「いつも身近にいるママ友・先輩ママに子育てについて相談ができる」と話す。

だが母子が一緒に過ごせる期間は1年のみ。1歳になった子どもは中央女子刑務所を出るのが決まりだ。刑務所には常駐の心理カウンセラーがいて、1年後の別れのための心の準備をサポートするという。1歳の誕生日を迎える前に、刑務所の職員が母親の家族に連絡をとり、子どもの引き取りを依頼する。それができない場合、子どもは政府が運営する養護施設に行くことになる。

実は、タイの法律は刑務所内で女性が子どもを生んだ場合、3年にわたって所内で親子が一緒に過ごすことを認めている。だが中央女子刑務所が期限を1年とするのは「刑務所で育ったという記憶を子どもにもってほしくないから。刑務所の外の景色も早く見せてあげたい」(刑務所常駐の心理カウンセラー)というのが理由だ。

母の立場からすれば、生後1年で子どもと引き離されるのは辛い。しかし刑務所で母となった女性のひとりは「子どもとの別れは悲しいが、子どもには最高の環境で育ってほしい。だから別れは受け入れる」と言う。

1年という時間は「母の気持ち」と「子どもの将来」の両方のためになる絶妙なバランスを保っているといえそうだ。