中国の一人っ子政策、「結婚難」と「経済成長の減速」を引き起こす

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中国のノーベル文学賞受賞者、莫言は代表作「蛙鳴」で現代中国を代表する制度「一人っ子政策」について描写した。「堕ろせば、1人の人間の命が消える。産めば、世界が飢える」

■「4億人」の出生抑制、労働人口の減少続く

1979年に開始された「一人っ子政策」は、食糧・エネルギー不足を懸念する中国政府により人口抑制のために実施されている。その実績として、中国政府は「1980年代以降、4億人の出生を抑制した」としている。

この「一人っ子政策」は中国の全人口の63%(第1子が女児だった場合、第2子をもつことなどを許可する地方がある)をカバーしているが、甘粛省のある地域では1人目を出産すると子宮内に器具を装着され、2人目を出産した場合は不妊にさせられる。仮に3人目の子どもをもった場合は罰金3万元(約44万2000円)を覚悟しなければならない。別の地域では、2012年夏に妊娠7カ月の女性が堕胎を余儀なくされ、国民の批判を浴びた。

2012年の国家統計では、15歳から59歳までの労働可能人口は、前年に比べ345万人減少し、9億3700万人になった。さらに2025年から毎年1000万人のペースで減少する見込みだ。一方、2030年までに中国の高齢者人口は3億6000万人に達すると推測されている。

■男女バランス悪化、農村部で顕著に

「一人っ子政策」は男女比のバランスも悪化させている。最近の調査で、1970年代から1990年代半ばにかけて出生した独身(離婚者、死別者含む)の男性は中国全土で現在2億4900万人となり、結婚相手となり得る同年代の女性を2300万人以上も上回ることが判明した。

世界的な平均的男女比は103対107だが、中国の場合は、118対100となっており、男性の人口が極端に多いことが窺える。

中国の中でも、都市部に比べて圧倒的に男女比のバランスが悪いのは農村部だ。農村部では男子が家督を継ぐ傾向が都市部と比べて強いため、男子の誕生を喜ぶ風潮があるからだ。女児が生まれると遺棄したり、殺害したりする親が後を絶たない。あるいは、男児が生まれるまでひそかに出産を続け、第2子以降は戸籍に載せない「闇っ子」が多いのも現状だ。彼らは教育や保健サービスを受けることができないという問題も存在する。

その中で、2012年11月に胡錦濤国家主席が共産党大会で行った演説からは「低い出生率を維持する」との文言が削られた。この「一人っ子政策」推進の文言が指導者の演説から削除されたのは10年ぶり。中国人民大学の教授は、「2人目の子どもをもつことを自由にしても、教育や育児にかかるコストが人口抑制の圧力となる一方で、出産の自由があることで極端な男女比が改善される」との研究を発表している。

■大都市で嫁探しも、収入格差が障害に

嫁不足に悩む農村部の男性は、配偶者を求めて大都市に流入する。農村部では働き手がいなくなり、若者がいなくなることで子どもの数も減る。中国の人口の約半数は都市在住者といわれる。

しかし、たとえ比較的女性の多い都市部に移り住んだとしても問題になるのが、男性と女性の収入格差だ。良い収入を得られるかどうかは、教育の質により決まる部分も多い。一般的に農村部より都市部の方が教育に投資できる財政的余裕があり、その分だけ教育の質も上がることになる。

男女比がアンバランスな中国だが、都市部では25歳から34歳の未婚女性は700万人に上る。彼女たちは、主に高学歴で著名な大企業に就職し、高収入を得る傾向が強い。勤労意欲も高い。

米国のノーベル経済学賞受賞者、ゲイリー・ベッカー教授の研究では、高学歴の女性は、自らの収入と将来の夫候補の男性の収入を天秤にかける。そして、男性との収入格差が小さいほど、女性にとって結婚の価値は下がる。そのため教養水準の高い中国の女性は、格下の男性と結婚するよりも独身でいることを好む。結婚するよりも独身でいる方が、好きなように収入を使うことができ、かつ面倒な家事負担を夫に強いられることもないからだ。

■結婚難で少子化に、「二人っ子政策」を導入?

このように経済格差の拡大する中国では、「男性が経済的理由から結婚をあきらめる」または「女性が理想の配偶者が現れるまで長期にわたって待つ」傾向にあるという。しかし、「このペースで少子高齢化が続けば、労働人口の減少で納税者や労働者が減り、老人を介護する人がいなくなる」と専門家は危惧する。

中国ではいまだに社会保障が充実していないため、一人っ子は結婚しても、妻あるいは夫と2人で4人の親の老後を見なくてはならない。そのため、収入を消費よりも貯蓄に回す傾向が強いという調査結果もある。こうした貯蓄志向は内需縮小につながり、経済発展の障害になるともされる。

結婚をしない男女の増加により少子化は加速し、ひいては納税者・労働者の減少による経済成長の減速は不可避だ。中国の国営シンクタンクによれば、中国政府が「二人っ子政策」の導入に動くとの見方もある。中国が「一人っ子政策」から「二人っ子政策」にシフトする日も遠くないかもしれない。(今井ゆき)