フィリピンのダイビングメッカ「ボホール島」が環境汚染で封鎖? 日本の自動車部品加工技術は救世主になるか

オーエム製作所がボホール州の公園に設置した浄化槽施設。浄化槽処理に水生植物を使った植生処理を加え、池に見立てた。鯉が飼われ、公園の親水空間となっている

日本の自動車部品加工会社であるオーエム製作所(本社:埼玉県神川町)が、自前の技術をフィリピンの下水処理に生かそうとしている。下水道がなく、海の汚染が進むフィリピン中部のボホール州に、同社は、下水処理パイロットプラントを設置する計画だ。国際協力機構(JICA)のSDGsビジネス支援事業の一環。同社の松田吉司社長は「ボホール州(ボホール島とパングラオ島)を手始めに、フィリピン全土で下水処理を推し進めたい」と意欲を燃やす。

オーエム製作所は、大手自動車部品メーカーへのハネウェルターボ(自動車用ターボ)の供給を通じて、日本の自動車産業を支える中小企業だ。松田社長は、妻の親せきが暮らすボホール州に通うなか、観光客が年々増え、それに伴い沿岸の水が汚くなっていくことがかねてから気にかかっていた。「下水処理が必要だ」と強く感じたという。

麻薬戦争で有名なフィリピンのドゥテルテ大統領は、実は環境対策にも積極的だ。深刻な海の汚染を理由に、国内屈指の観光地ボラカイ島を2018年4月から半年間封鎖したことは記憶に新しい。

ドゥテルテ大統領は先ごろ、環境相と一緒にボホール島を視察。その際に、ボホール島やパラワン島などの観光地を環境整備のために封鎖する可能性をほのめかした。観光を主な収入源とする自治体はこの方針に戦々恐々とする。

ボホール州では他の多くの地方都市と同様、下水道は整備されていない。トイレの排水は汚泥層にため、上澄みを川に流す。汚泥が一杯になれば、民間の業者がバキュームカーで引き抜く。だが処理施設はないため、そのまま捨てるのが実情だ。

こうした理由から、フィリピンで下水処理のニーズは高い。ところがフィリピンの環境基準は、先進国と同じレベルの高度な下水処理を求める。このため技術を普及させるにもコストの壁を乗り越えることが不可欠となっている。

そこで松田社長が思い当たったのが、敷地面積が小さくて、またメンテナンスの費用が抑えられる単層の下水処理方式に、オーエム製作所の自動車部品加工の自動制御技術を取り入れることだ。首都マニラにテストラボを設置。排水質に応じて、遠隔制御で高度な下水処理ができる画期的な技術を開発した。2年かかったという。

海の富栄養化を防ぐためには、排水の中に含まれる有機物を処理することに加えて、リンと窒素を取り除くことが欠かせない。そのために必要なのが嫌気・好気・無酸素処理を行うこと。単層式ではこれを1つの層で済ます。だが処理層が1つだと、面積や整備費を抑えられるというメリットがある半面、排水の状況に応じた処理時間の調整や、好気処理から無酸素処理プロセスに転換するうえでの管理などの面で高い技術が必要となる。

オーエム製作所は、ここに自動車部品加工の自動制御技術を生かした。安定的な高度下水処理を実現する処理シーケンス(プロセス)を自動化する制御技術を開発し、すでに国際特許技術を取得した。

同社の技術を搭載した汚水処理施設を、ボホール島のすぐ南にある観光の島・パングラオ島へ設置し、観光客、地元住民含め4万人の下水処理で効果を実証する計画だ。

松田社長は「まずは緊急性の高いボホール州で下水処理改善のモデルを作りたい」と語る。その次の目標として、下水処理を全国に普及させるために必要な下水道技術者を育成する場にしたいと掲げる。

人口1億人を超えるフィリピン。下水道がまだ整わないこの国の下水処理施設のマーケットは広大だ。日本の自動車部品加工の技術をフィリピンの下水処理に、国境と技術の壁を超えて環境対策への取り組みが進んでいる。