インドにはびこる女性軽視を打ち破りたい! 不浄の象徴・サリーをエコバッグにリサイクルする日本人女性がいた

写真中央が望月聖子さん写真中央が望月聖子さん

「生理中の女性が穢(けが)れているとされるのはおかしい」。こう話すのは、インド西部の街プネーのティラック・マハーラーシュトラ大学で講師として働く望月聖子さんだ。望月さんは、インド女性の伝統衣装であるサリーの着古したものを使ってエコバッグを作る。穢れ(不浄)とされるサリーを“価値あるもの”にリサイクルすることで「生理中の女性は穢れていない」という価値観を広める。

■かわいい!きれい!

望月さんは、インド人女性の友人の家を回り、着古したサリーを物々交換で手に入れる。それを、ミシンをもつ専業主婦のところに持って行き、1つ100ルピー(150円)でエコバッグの仕立てを依頼する。「これは相場の5倍」(望月さん)。でき上がったエコバッグは、東京・梅ヶ丘にあるホットケーキパーラー・フルフルに卸している。小売価格は1つ1500円とお手ごろだ。

望月さんが作るエコバッグの特徴は、バリエーションの豊富さと希少性だ。サリーはもともと綿やシルクなどさまざまな材質で作られる。柄も多様で、刺繍がついたものも多い。中には金糸やビーズを織り込んだものも。こうしたサリーを生地にすることで、一点もののエコバッグができ上がる。

東京・銀座にあるマロニエゲートのエシカル&クラフトショップに5月下旬に出品した際は、エコバッグ10個が販売初日で完売。急きょ、商品を補充した。訪れた女性客からは「かわいい!」「すごくきれい!」という声が上がった。

■「生理女性は不浄」の概念を変える

インドには昔から「不浄」という概念がある。生まれつき穢れていて洗ってもきれいにならないという考え方だ。生理中の女性は不浄とみなされ、さまざまな迫害を受ける。初潮になった女の子が家畜小屋に押し込められたり、学校に通わせてもらえなくなったりといった話も聞く。

女性が着るサリーもまた不浄とされ、古着としてサリーが出回ることはほぼない。望月さんが住むプネーでは年に4回大きな祭りがあり、女性はその度にサリーを新調する。しかし一度使ったサリーは他に使い道がなく、結果、古くなったものはほとんど捨てられてしまうという。

捨てられるサリーに新たな価値を吹き込む活動は、女性に対する偏見をなくすことにつながるはず、というのが望月さんの持論だ。

「本当はインドで売りたい。だけど不浄の概念の強いインドでは難しいと思う。まずは日本で販売し、流通させる。エコバッグが日本で人気となり、それをインド人が知れば、サリーや生理中の女性に対する考え方も少しは変わるのではないか」

■「夫依存」を断ち切る!

エコバッグの仕立てを専業主婦に任せることにも意義がある。女性の経済的自立を促すためだ。

エコバッグづくりは、家事や子育ての合間でできる仕事。時間があるときは1日10個作れるという。この場合、主婦のもうけは1000ルピー(約1500円)になる。1人当たりの年収が1790ドル(約19万円)のインドでこの金額は大きい。

エコバッグから得た収入を、自分の子ども、特に女の子への教育に使ってほしい、というのが望月さんの願いだ。インドでは、女性軽視の風潮から女性への教育は制限されてきた。農村部には、学校に行かせてもらえず、教養もないまま結婚させられる女性はまだまだ多い。このため「夫依存の夫婦関係」になってしまう。こうした家庭で生まれる女の子もまた同じ道をたどる。

「女性たちにはエコバッグ作りでお金を稼ぎ、自分の子どもを学校に行かせてほしい。これが、女性が弱い立場に追いやられる負の連鎖を断ち切るきっかけになる」(望月さん)

■生理用品は家の外に捨てなさい

望月さん自身も、実はインドにはびこる女性に対する差別を体験したことがある。

2019年の年明けに女性の友人宅にホームステイしていたとき、望月さんの生理が始まった。それを知った友人は、生理用品を家の外に捨てるよう望月さんに迫った。血の付いた下着も目の前で洗うよう要求した。親しい関係で、しかも外国人でもある望月さんに対してここまでする友人の姿を見て、偏見の根深さを実感したという。

女性に対する理不尽な行為はこれだけにとどまらない。結婚する際に、新婦側の家族が新郎側に払う持参財(ダウリー)、異なるカーストとの結婚や婚前・婚外交渉が原因で女性が親族に殺される名誉殺人、多発するレイプ事件‥‥。

驚くことにヒンドゥー教の経典「マヌ法典」には「女性は邪道に導くもの」「女は男に従属した存在で決して独立することはない」と記されている。こうした思想のもとで育った女性は、自分自身は穢れていて、男性に従属した存在だと思い込んでしまう。

望月さんが立ち上げたエコバッグのブランド名は「eduall」(エデュオール)。「Education for All」(みんなに教育を)の略だ。エコバッグ作りを通して、「女性は穢れていない」「女性には価値がある」ということをみんなにわかってほしい。また、女性の収入を向上させることで、教育を受けてほしいとの願いが込められている。

エコバッグは店舗に続き、オンラインでの販売も開始した。エコバッグの収入が安定したら、それを元手に保育園や小学校の運営にも乗り出したいと望月さんは目を輝かす。

日本から寄付されたもの。これらがインドで、サリーと物々交換される

日本から寄付されたもの。これらがインドで、サリーと物々交換される

エコバッグを作る女性たち

エコバッグを作る女性たち