ベトナム戦争に反対した元米軍看護師、枯葉剤被害者の救済を50年訴え続ける

ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン主催の講演会「私たちが見た戦争のリアル」でスピーチするスーザン・シュノールさん。講演会は10月25日~11月10日に日本各地で開かれた(写真提供:ベテランズ・フォー・ピース)ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン主催の講演会「私たちが見た戦争のリアル」でスピーチするスーザン・シュノールさん。講演会は10月25日~11月10日に日本各地で開かれた(写真提供:ベテランズ・フォー・ピース)

ベトナム戦争で米軍が犯した残虐行為を批判し続ける米国人女性がいる。元米海軍看護師で、現在は「ベテランズ・フォー・ピース(平和を求める元軍人の会)」ニューヨーク支部代表のスーザン・シュノールさん(76)だ。初めて来日したシュノールさんは先ごろ、青山学院大学で開かれた講演会(主催:ベテランズ・フォー・ピース)で「ベトナム戦争は多くの人たちを傷つけた。50年以上経った今も、枯葉剤の影響で病気に苦しむ人がいる」と訴えた。

■兵士の手当てだけが使命じゃない

シュノールさんはベトナム戦争中の1967~69年、米国カリフォルニア州オークランドにある海軍病院で看護師として働いていた。仕事は、戦闘で負傷して運ばれてきた米軍兵士の手当てをすること。「戦いで疲弊しきっていた兵士たちの心を癒してあげるのが私の使命だと思った」とシュノールさんは当時の心境を振り返る。

だがシュノールさんの考えは徐々に変わっていく。「看護師として必死に働いても、兵士を助けることも、心を癒すこともできない。ましてや戦争を終わらせることなんて無理だ」と語る。

負傷者をこれ以上出さないために自分ができることは何だろうか、とシュノールさんは考えた。たどり着いた答えは反戦運動。「自分も看護師として米軍に勤務しているから、残虐行為をする米軍の一員だと気づいた」

■2万枚の反戦ビラを上空からまく

シュノールさんが反戦運動に参加した1968、69年といえば、米国で反戦運動がちょうど盛んになったころ。ベトナムで米軍による大量虐殺が明るみになったからだ。1968年3月16日に起きた「ソンミ村虐殺事件」では、老人、女性、子どもなど非武装の南ベトナム人およそ500人が犠牲になった。事件の真相を米軍が発表したのは8カ月後だった。この事件で反戦運動は勢いを増した。

1968年10月10日、シュノールさんはサンフランシスコのベイエリアにある5つの米軍基地に、飛行機で上空から合計2万枚の反戦ビラをまいた。反戦運動の一環である、退役・現役軍人による平和行進への参加を呼びかけるためだ。軍の飛行機ではなく、民間機をわざわざ借りて、元飛行士の友人に操縦してもらった。

シュノールさんはこの後、軍服を身にまとって記者会見を開いた。現役軍人が反戦運動をするという事実を米国民に示したかったからだ。平和行進にも軍服姿で参加した。

シュノールさんの行動は軍の規律に反しているとして、1969年に高等軍法会議にかけられた。「6カ月の強制労働」という有罪判決が出た。だが女性軍人が刑を受ける環境が整っていなかったこと、またシュノールさんは看護師だったことから強制労働は実施されなかった。

「反戦を訴える現役軍人たちが先導する平和行進だということを強く訴えたかった。軍の中にいる人も声をあげることが必要だった。自分はやるべきことをした」とシュノールさんは胸を張る。

■知的障害の子どもが生まれる

ベトナム戦争で米軍が使用した武器のひとつに枯葉剤(エージェントオレンジ)がある。米軍は1961~71年の10年間、ベトナムの中部や南部に枯葉剤を散布し続けた。まいた枯葉剤の総量は約2000万ガロン(7600万リットル)。推定480万人のベトナム人が枯葉剤を浴びた。この枯葉剤には有毒物質のダイオキシンが含まれていた。

「ダイオキシンは、枯葉剤を直接浴びた人たちを後遺症で苦しめただけではない。彼らの子どもたちにも悪影響を及ぼす」とシュノールさんは強調する。

枯葉剤に含まれるダイオキシンは遺伝という形で何世代にもわたる細胞の変化を引き起こした。その結果、被ばくした親の子どもは先天性欠損症(身体障害、知的障害、発達障害など)などの病気をもって生まれたという。

■被害者救済法案を下院に提出

シュノールさんは2010年、枯葉剤の影響で先天性欠損症をもって生まれた子どもに会うため、ベトナム・ホーチミンの病院を訪れた。ベトナム戦争で枯葉剤がどう使われたのか、また枯葉剤がどんな影響を与えたのかを伝えていく必要がある、とそのとき感じたという。

シュノールさんは活動のひとつとして、米国オハイオ州の団体「Children of Vietnam Veterans Health Alliance」と一緒に、ベトナム系米国人の枯葉剤被害者の救済を求めてきた。枯葉剤による病気を患っているにもかかわらず、ベトナム系米国人は米政府から手当ての支援を受けることができない現状を打破するためだ。

シュノールさんは2019年、米下院議員の協力を得て、枯葉剤被害者救済法案を下院に提出した。法案の主な内容は下のとおり。

①ベトナムでダイオキシンを除染する
②ベトナム人の枯葉剤被害者を支援する
③枯葉剤の影響を受けたベトナム戦争帰還兵の子ども、孫たちを支援する
④枯葉剤の影響を受けたベトナム系米国人を支援する
⑤枯葉剤がどれだけ人体に悪影響を及ぼすかを研究し、隔年で結果を発表する

反戦運動に参加していたころのシュノールさん(黄色の丸の中の人)。軍服姿だ(写真提供:ベテランズ・フォー・ピース)

反戦運動に参加していたころのシュノールさん(黄色の丸の中の人)。軍服姿だ(写真提供:ベテランズ・フォー・ピース)

現在はベテランズ・フォー・ピースのニューヨーク支部代表を務めるシュノールさん。団体の旗とともに(写真提供:ベテランズ・フォー・ピース)

現在はベテランズ・フォー・ピースのニューヨーク支部代表を務めるシュノールさん。団体の旗とともに(写真提供:ベテランズ・フォー・ピース)