2018年のマラリア感染者は全世界で2億2800万人、トップ3はナイジェリア、コンゴ民主共和国、ウガンダ

ハマダラカの写真。ハマダラカと一口でいっても種類は500種超。マラリア媒介能力が高く危険とされているのは約20種といわれる

世界保健機関(WHO)は12月4日、世界マラリア報告書2019を発表した。これによると、2018年は全世界で2億2800万人がマラリアにかかった。感染者数のトップ3は、いずれもアフリカのナイジェリア、コンゴ民主共和国、ウガンダだ。マラリアによる死者は全世界で40万5000人に上った。

■93%がアフリカ

マラリア感染者の数を地域別にみると、アフリカが感染者2億1300万人で全世界の93%を占有。また全世界の半数をアフリカのわずか6カ国で占めた。ナイジェリア(全世界の25%、5700万人)を筆頭に、コンゴ民主共和国(12%、2736万人)、ウガンダ(5%、1140万人)、コートジボワール、モザンビーク、ニジェール(それぞれ4%、912万人)。これに続くのもブルキナファソ、マリ、アンゴラ、タンザニア(それぞれ3%)とアフリカ諸国だ。

死者数は全世界で40万5000人。2010年の58万5000人から大きく減った。だがここ3年の減少ペースは遅い。

死者が圧倒的に多い地域もアフリカ。全世界の94%を占めた。最多はナイジェリアの9万7200人(全世界の24%)。以下、コンゴ民主共和国(4万4550人、11%)、タンザニア(2万250人、5%)、モザンビーク、ニジェール(それぞれ1万6200人、4%)、アンゴラ、ウガンダ、ブルキナファソ、ケニア、マリ(それぞれ1万2150人、3%)の順。

マラリアに感染して、とりわけ危ないのは妊婦だ。妊娠は、女性のマラリアに対する免疫力を低下させる。このためマラリアに感染しやすく、重症化したり、重度の貧血に陥ったり、また命を落とすリスクも高い。

妊娠中の女性がマラリアにかかると、胎児の成長を妨げ、早産や低出生体重のリスクが高まるのも問題。低体重で生まれた新生児はマラリアの有病率が高い。妊婦のマラリア感染を防ぐことが、子どもの感染や死亡を減らすことへの近道となっている。

■病院に行けた子どもは52%

妊婦と子どもをマラリアから守るため対策として、WHOは、殺虫剤処理をした蚊帳を使うこと、抗マラリア薬を服用することなどを薦めてきた。これらの普及率は着実に上昇。だがそれでも2018年は妊婦の4割近くが殺虫剤処理をした蚊帳のなかで眠れない。また、WHOが推奨する3回以上の抗マラリア薬を受け取ることができた妊婦も3分の2にとどまった。

マラリア撲滅に向けて大きな壁となっているのは、高熱を出してもマラリア専門医の診察を受けられないことだ。軽度のマラリアが重症化して死亡するのを防ぐには迅速な診断と治療が不可欠。ところが2015年から2018年のサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカを対象にした全国世帯調査によると、高熱を出した5歳未満児の52%しか、病院で診察を受けられなかった。内訳は公立の病院42%、私立10%。

対策資金も不足している。マラリア流行国の政府と国際パートナー機関は2018年、マラリア対策に推定27億ドル(約2943億円)を投じた。だがこの金額は目標額50億ドル(約5450億円)の6割以下。WHOのテドロス事務局長は「政治家の決意、潤沢な資金、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人が医療サービスを受けられる体制)が整えば、マラリアを撲滅できる」と世界に呼びかける。

マラリアは、エイズ、結核と並ぶ世界三大感染症のひとつ。マラリア原虫(寄生虫)を保有するメスのハマダラカに刺されることで人に感染する。免疫をもたない人は通常、感染したハマダラカに刺されてから10~15日で症状が現れる。初発症状は発熱、頭痛、悪寒など。軽いため、マラリアにかかったと気づかないこともある。

マラリア原虫を媒介するハマダラカは日本国内にも生息する。ただハマダラカの生息地の拡大や生息数の増加を示唆する報告はほぼない。国内でのマラリア再興のリスクも小さいという。国立感染症研究所によると、日本国内でのマラリア報告数は年間50~70件。国内の発症例はすべて海外で感染したものだ。

国別のマラリア症例数。茶色に塗られた国がマラリア感染者が多い国。これに茶色、赤、ピンクと続く(世界マラリア報告書2019より引用)

国別のマラリア症例数。茶色に塗られた国がマラリア感染者が多い国。これに茶色、赤、ピンクと続く(世界マラリア報告書2019より引用)