難民ライフは過酷とは限らない、コロンビアで日本文化をエンジョイするベネズエラ人も

得意の折り紙の作品をもつアレックスさん(コロンビア・メデジン)折り紙で作ったクジラについて熱く語るアレックス・ベラさん(コロンビア・メデジン)。石油産業で有名なベネズエラ・マラカイボ出身だ

“普通の暮らし”を送る難民がいる。コロンビア第2の都市メデジンに7カ月前に逃れてきたベネズエラ人のベラさん一家だ。彼らの家には、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなどの家電、ベッド、WiFiがそろう。家族全員がスマートフォンをもつ。ベラ家の長男であるアレックスさん(29)は、難民として暮らすなかで、折り紙や日本語の勉強など趣味に没頭する時間を楽しむ。

■恐竜の折り紙を自作

食事は1日に3回。朝食は卵入りのサンドイッチ。昼食はコメと鶏肉または牛肉。夕食はチーズサンドイッチをよく食べるという。家族で、ベネズエラのお菓子マンドカ(トウモロコシの粉、八角、砂糖、塩を混ぜて揚げたもの)を作ることもある。

アレックスさんは無類の日本好きだ。メデジン在住の日本語教師・羽田野香里さんが主宰し、日本文化を学ぶ「日本クラブ」のメンバーでもある。クリスマスシーズンには、メンバーたちと日本の演劇「坂本龍馬」を上演し、エキストラとして出演した。

彼の一番の趣味は折り紙だ。10歳から始め、いまでは独特の折り方で、恐竜やシャチなどの作品を作れるようになった。折り紙はメデジンでは手に入らない。そのためアレックスさんは紙とアルミを使い、自分で色を付ける。自信作はインスタグラムに投稿し、人気を博している。

■豪邸生活も1日2食

ベラさん一家は、ベネズエラ第2の都市マラカイボ出身だ。広さ650平方メートルの豪邸に住んでいたが、食料不足から1日2食だったという。同じメニューが続く日も少なくなかった。

ベネズエラでは勉強を続けることも難しかった。アレックスさんが通っていたスリア大学は閉鎖。このため、専攻していた生物学の勉強を断念することに。スリア大学が閉鎖した2年間、アレックスさんは、学内にある生物博物館で展示品の準備やガイドをしながら、はく製の作り方を学んだ。

ベネズエラでは2019年の初め、マドゥロ大統領が2期目の大統領就任を発表した。ところが選挙結果の正当性に不満をもつ国民がベネズエラ全土で大規模なデモを敢行。治安はさらに悪化した。「警察が犯罪に手を染めるケースも常習化した」(アレックスさんの母)

治安が悪いだけではない。マラカイボでは1日12時間の計画停電もある。電気が止まると水が止まるため、生活は困難を極める。

■ゲリラの恐怖に怯える

ベネズエラの先行きに不安を感じた一家は2019年7月ごろ、ベネズエラを出ることを決意する。

アレックスさんの父親は当時、ベネズエラ東部の街クマナで、国営の石油会社PDVSAで機械エンジニアとして勤めていた。アレックスさん一家は近所の人に、クマナに行くと嘘をついて家を出たという。コロンビアへ行くと言うと、政府系ゲリラ「コレクティーボ」から恨みを買い、何が起こるかわからないからだ。マラカイボにある家は管理人に預けた。

マラカイボからコロンビアとの国境付近までバスで移動した。「道中にはいくつも検問がある。恐怖を感じた」(アレックスさんの母)。検問では、脅されたり、金銭を没収されたりすることもざらだ。

メデジンにやってきた3人に仕事はない。ドイツに住む親せきから仕送りを頼りに暮らしている。「援助が欲しいときに送金をお願いする」(アレックスさん)。路上でお菓子や折り紙を売るが、6時間働いて何も売れない日もあるという。

「生活は、ベネズエラのときよりコロンビアのほうがいい。ベネズエラは食料不足だし、危険。戻れるなら戻りたいけど、ベネズエラには戻れない」(アレックスさん)

アレックスさんの夢は生物学者になることだ。「折り紙で作った生物を使って、みんなに生物の神秘性を伝えたい。小さくて動く昆虫類も、折り紙ならサイズを調整でき、細部も見やすくなるから」と話す。