ベナンの中学校を覆う4つの問題、生徒の親「教育より一家の生活が大事」

2年前に教師の仕事を始めたトゥクポノ・バーナードさん。大変だが仕事にやりがいを感じると話す(ベナン・コトヌーのホテルで撮影)2年前に教師の仕事を始めたトゥクポノ・バーナードさん。大変だが仕事にやりがいを感じると話す(ベナン・コトヌーのホテルで撮影)

西アフリカ・ベナンの中学校には4つの問題がある——。特に深刻なのが、親が子どもを学校に行かせないことと、学校に通う女子が男子に比べて少ないことだ。ベナンのアボメカラビにある公立と私立の2つの中学校で教鞭をとる理科教師、トゥクポノ・バーナードさん(28歳)は「子どもが学校に行く価値を親は理解していない」と嘆く。

■宿題をやってこない

ベナンの中学校が直面する最大の問題は「親が子どもを学校に行かせないこと」だ。理由は、学校に行かせるお金がないから、子どもたちに家事を手伝わせたいからというもの。一家を支えるために畑仕事をする子どももいる。

親が子どもを学校に行かせたとしても、家で勉強させないため、ほとんどの生徒は宿題をやってこない。バーナードさんは「だから教師が学校で生徒に宿題をやらせなくてはならない。授業も進まない。授業についていけない生徒も多い」と説明する。

国連教育科学文化機関(UNESCO)によると、2016年のベナンの中等教育(中学、高校)就学率は、平均の88.14%を大きく下回る59.04%(ベナンの義務教育は小学校まで)。129カ国中104位だった。カメルーンやレソトとほぼ同じレベル。ちなみにトップはベルギー。ワースト5カ国はすべてサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカで、下から順に中央アフリカ共和国、チャド、ニジェール、タンザニア、モーリタニアが並ぶ。

■女子の就学率は下から5位

2つめの問題は、中学校に通う女子が少ないことだ。バーナードさんが勤める私立中学校の生徒の男女比は6対4。理由は、親が女子に家の手伝いをさせるからだ。他の男性と早く結婚させたがる親もいる。とりわけ家庭が貧しい場合は、家族の食いぶちを減らすことが優先する。「女子が学校に行くのは時間と金の無駄」という考え方も根強い。

女子を中学校に行かせる対策としてベナン政府は2019年、教育改革を実施した。合計23万107人の女子中学生・高校生の授業料およそ25億CFAフラン(約4億5686万6500円)を免除した。しかしバーナードさんは「学校に行く女子は少ししか増えなかった」と振り返る。

「男女格差(ジェンダーギャップ)報告書2020」(世界経済フォーラム)によると、ベナンの中等教育就学率は、男子の53.2%に対して、女子は13ポイント下回る39.8%にとどまる。特に教育面での男女格差は153カ国中149位と下から5番目だった。トップはオーストラリア、ボツワナ、コロンビア、エストニアなど25カ国が肩を並べる。ワーストは下から順にチャド、コンゴ民主共和国、ギニア、イエメン、ベナンだ。中学校の就学率と同様、サブサハラアフリカの国が下位を占める。

■教師になりたがらない

3つめの問題は、学校の設備が十分でないこと。

物理と化学を教えるバーナードさんにとって大きな問題は、学校に実験室がないことだ。力学や光学、化学反応を学ぶには、実験なしで生徒たちに理解してもらうことは難しい。バーナードさんは「実験室のある、他の街の学校に行かなくてはならない」と嘆く。このほか、ベナンの中学校では、勉強しやすい机、黒板、図書館が足りない。

4つめの問題は、公立中学校の教師の給料の低さだ。バーナードさんによると、公立中学校の教師の給料は、大学で教育を専門的に学んだ人とそうでない人で差がある。年収はそれぞれ126万CFAフラン(約23万805円)、114万CFAフラン(約20万8824円)だ。私立中学に勤める教師の給料は学校や個人によって異なる。

2017年のベナンの1人当たりの国民総所得(GNI)は2260ドル(約24万9860円)。公立中学校の教師の給料は1人当たりのGNIよりも低い。生活できる最低限のお金しかもらえない。「給料に満足していない」とバーナードさんは言う。

「教師の給料は良くないため、教師になりたがる生徒はいない。給料の良い医者や看護師、弁護士になることが夢と語る生徒は多い。ただ僕は何があっても教師を辞めないけれど‥‥」(バーナードさん)

バーナードさんは中学生のときに物理と化学のおもしろさに気づいた。それ以来、教師になることがずっと夢だった。「自分が教えた物理や化学を生徒たちがよく理解してくれたとき、生徒たちがテストで良い点数を取ったとき、とてもやりがいを感じる。自分が受け持つクラスから、学校で一番優秀な生徒が出るように頑張りたい」と話す。