協力隊員がベナンの漁港に託児所をオープン! 利用料はミネラルウォーターより安かった

西アフリカ・ベナンのコトヌー漁港で再オープンさせた託児所で子どもたちの世話をする古田拓志さん。「話すことができなかった発達障害の子どもがフランス語を少しずつ発声できようになった。親子で毎日楽しそうに、僕の教えるフランス語を練習している」西アフリカ・ベナンのコトヌー漁港で再オープンさせた託児所で子どもたちの世話をする青年海外協力隊員の古田拓志さん。「話すことができなかった発達障害の子どもがフランス語を少しずつ発声できようになった。親子で毎日楽しそうに、僕の教えるフランス語を練習している」

西アフリカ・ベナン最大の都市コトヌーの漁港に託児所「ギャルドリ・ド・ホワイエデファーム」(フランス語で「女性の家の託児所」の意)が2019年5月、オープンした。子どもをもつ女性たちが心持ちにしていた託児所だ。仕掛け人となったのは、青年海外協力隊員(職種:コミュニティ開発)の古田拓志さん(26歳)。「漁港で働く女性たちは子どもを背負いながら魚の売買の仕事をする。仕事・家事・育児もこなす彼女たちの負担を少しでも軽くしたかった」と話す。

■1日36円!

「オルゥ!オルゥ!」。託児所の子どもたちが叫ぶ。オルゥとは、ベナンの現地語(バリバ語)で「長男」という意味。古田さんのニックネームだ。古田さんは「子どもたちが僕の体をのぼってきて、まるでジャングルジム状態。クタクタになるけど、かわいくてかわいくて」と笑う。

古田さんが毎日通う託児所が預かるのは、2~5歳の子ども約20人。男女の比率はほぼ半分ずつだ。そのほとんどが漁港で魚の仲買人として働く女性たちの子ども。

託児料は子ども1人当たり1日200CFAフラン(約36円)。1.5リットルのミネラルウォーター(500CFAフラン=約90円)の半額以下だ。「公立の託児所は無料だけど、漁港から遠いから彼女たちは使えない。値段は利用者に聞き取り調査をして決めた」と古田さんは説明する。

この託児所で子どもたちの面倒を見るのは、漁港の近くに住むオビエージュさん。週5日朝9時〜夕方6時まで働き、給料は1カ月4万CFAフラン(約7300円)。みんなの託児料から捻出している。

託児所は、実は2010年に一度オープンした。ところが、施設を管理する組合が機能しなくなり、2016年に閉鎖。子どもたちはそのあいだ親に放っておかれ、漁港でぶらぶらするのが普通だったという。

「漁港の中で迷子になったり、子ども同士がけんかしたり、バイクに轢かれたりは日常茶飯事だった。迷子になった子どもを僕も一緒に探したこともあった。託児所が3年ぶりにオープンしたとき、子どもの安全を心配していた親から『車やバイク、リヤカーがたくさん通るので、仕事中に子どもがけがをしないか心配だったけど、今は安心して仕事に専念できる』と感謝された」(古田さん)

■フランス語も学ぶ

託児所は子どもを預かるだけではない。保育を担当するオビエージュさんは、ダンスや歌を通じて、ベナンの公用語であるフランス語を教える。ベナンでは、フランス語が十分にわからないため、小学校の授業についていけず、落第する子どもが少なくない。漁港で働く大勢の人たちは自分の名前すら書くことができないので、親が子どもに文字を教えるのは難しい。

託児所ではこの4月から、小学校に入る前の子どもに文字を教え始める。託児料などを原資に、子どもたちがフランス語を勉強するための机と椅子を取り寄せているところだ。

「フランス語を幼いときに教えるのは、子どもたちの落第を防ぐのが狙い。託児所の子どもたちには大学まで行ってほしい。日本語学校で日本語を学び、いつかは日本に留学してほしい」と古田さんは夢を語る。

託児所には楽しみもある。国際協力機構(JICA)が送料を負担するプログラムを使い、日本に住む古田さんの知人から木馬やボールプールなど中古のおもちゃを届けてもらった。「木馬に乗った女の子がバイクを運転するかのようにどや顔をしていたのが印象的だった」と古田さんは笑う。

■半年でオープン

託児所の再オープンに古田さんが取り組んだのには理由がある。

コトヌー漁港に派遣された青年海外協力隊員は過去10人以上。古田さんはここで活動する最後の隊員となる見込みだ。過去の隊員は、毎日水揚げされる魚介類のデータをパソコンに入力するのが主な活動だった。月ごとの漁獲量を把握することで、たとえば魚が少ない7~8月に漁師は休みをとるといった働き方を促すきっかけを作った。

古田さんは「でも僕はデータ入力のためにベナンに来たんじゃない。自分で生きる力を学びにきた。本当に求められていることは歯車になることではないとも思った。だからこの仕事を断った」。

断ったからには別の活動で素早く結果を出す必要がある。やってやるぞ、と古田さんは闘志を燃やした。

配属先(水産局が管理する漁港)で活動を始めて2カ月後、漁港で魚の売買をする母親たちを対象に、託児所が必要かどうかを尋ねるニーズ調査を実施した。結果は10人中全員が「ほしい」。この結果を受けて古田さんは、託児所の再オープンに向けて動き出す。

託児所を運営するには、施設を管理する「仲買人女性組合」の協力が必要だ。そこで古田さんは女性組合のリーダーにアプローチする。「計画を話しても無視され続けた」

リーダーの元に通い続けて4カ月が経った。漁港でリーダーがタマネギを切っていたところ、古田さんは「これを見てください!」と接近。1畳ほどの大きな紙に書いた事業計画を広げ、託児所再オープンの計画のプレゼンを始めた。

リーダーを説得させようと、通りがかった仲買人の女性4人ほどが古田さんのつたないフランス語を助けはじめた。リーダーは、そこまで言うなら仕方ないわねといったように笑い、「来週、女性組合の幹部会で話しなさい」と古田さんに言った。

幹部会で、託児所を再オープンさせることに賛同を得た。女性組合は、託児所で使うトイレットペーパーと絵本を買うこと、子どもの面倒を見る人を探すことを約束してくれた。その2カ月後、託児所が漁港内に再オープンした。「動き始めてから6カ月かかった。思っていた以上に大変だった」と古田さんは振り返る。

■クエを食え!

古田さんはこの3月から、漁港からコトヌー近郊在住の日本人を含む富裕層を対象にイカやクエ、伊勢海老(錦海老)、サバなどを届けるサービスを始める。冷凍ではなく、鮮魚だ。「日本人の欲しがる魚を知ることによって、鮮魚と冷凍魚の価値の違いを知ってほしい。鮮魚の価値がわかれば、高く売れる」

古田さんは「イカが特に美味しくてお勧め。高級魚のクエの値段は日本の16分の1といわれる。特に日本食レストランやJICA関係者、日本大使館の職員たちに買ってもらえれば」と期待を寄せる。

古田さんによると、女性(母親)たちが仕事するあいだ、就学前の子どもの半分がまだ託児所に行けない。6歳で漁に出る子どももいる。その理由はお金がないから。魚を買うことは漁港の女性たちの収入を上げることにつながる、というのが古田さんの考えだ。

宅配サービスの流れはこうだ。無料通話アプリ「ワッツアップ」(日本のラインに相当する)でグループを作り、その日のお勧めをメッセージで送る。メッセージまたは電話で注文を受ける。古田さんが女性の仲買人から魚を仕入れ、バイクタクシーで届ける。

料金は、魚の値段に加えて、「宅配料」と「女性組合に入るサービス料」がかかる。宅配料は漁港からコトヌー市内であれば約500CFAフラン(約90円)。サービス料は宅配料と同額になる。

仲買人の収入が増えれば、子どもを託児所に預けられる。そこでフランス語を学べば、中学・高校・大学へ進学できるかもしれない。「子どもたちが教育にアクセスできるお手伝いを少しでもできれば」。古田さんはこう目を輝かせる。