ベナンの一児の父が仕立屋の見習いに! 一家の生活は妻に頼る

仕立屋の見習いとして、人生の再スタートを切ったボリス・ビアウさん。ベナンの厳しい就職事情を乗り越えようと前向きだ仕立屋の見習いとして、人生の再スタートを切ったボリス・ビアウさん。ベナンの厳しい就職事情を乗り越えようと前向きだ(ベナン・コトヌーにある見習い先の仕立屋の前で撮影)

西アフリカのベナンで食いっぱぐれのない仕事といえば、服の「仕立屋」だ。一児の父、31歳のボリス・ビアウさんは半年前から、同国最大の都市コトヌーで仕立屋の見習いになった。前職は車のバッテリーの販売。畑違いの仕立屋になるために修行する期間は3年。その間は無収入どころか、年間5万CFAフラン(約9000円)を見習い先の師匠に払わなければならない。夫に代わって一家の生活を支えるのは妻だ。

ビアウさんは大学で金融を学んだ。だが銀行などでの就職はかなわなかった。卒業後、大手企業でのインターンシップを経て、車のバッテリーの販売会社に就職する。だが3年後に倒産。「会社がつぶれてさえいなければ、続けていたのに」とビアウさんは振り返る。

無職になったビアウさんは4カ月ほど就職活動をする。ところが仕事は見つからなかったという。

ベナンで就職するのは、日本とは比較にならないぐらい難しい。「ベナンでは一流大学を出ても仕事にありつけない。就職できるのは一握り。特に金融業界での就職は至難の業。この国は銀行が少ないから」とベナンの若者らは口をそろえる。

ビアウさんには幸いにして、仕立屋として安定した収入を得る母、妻、友人らがいた。また、自身も上下セットのベナンの伝統的な仕立服を30着ほど持っている。おしゃれはもともと好きだ。「(仕事がないから)知り合いから紹介された仕立屋の見習いになることにした」(ビアウさん)

ベナンにはまだ、個人で服を仕立てる文化が根強く残っている。やり方はこうだ。まず1万CFAフラン(約1800円)ほどで気に入った布(上下セットでだいたい2着分)を買う。それを仕立屋に持ち込み、4万CFAフラン(約7200円)ほどで2着依頼する。1週間ほどで出来上がる。1人で100着以上持つ人もまれにいる。仕立屋の需要は高い。

見習いを始めておよそ半年。ミシンにはまだ触らせてもらえない。担当するのは、顧客の採寸と師匠が仕立てた服の配達だ。練習用の布を使って裁断も学ぶ。

見習い期間中にかかるお金は、師匠に払う年間5万CFAフラン(約9000円)のほか、日々の出費として、自宅と仕立屋を往復するバイクタクシー代300CFAフラン(約54円)、昼食代500CFAフラン(約90円)など。すべて妻が払う。

仕立屋をすでに開業している妻や母から教わることは考えなかったのか。ビアウさんは笑う。「家族だからふざけてしまって、まじめに修行できないと思ったんだ」

ベナンでは仕立屋として独立するには3年ぐらいの修行が必要といわれる。腕が良ければ、服を新調する人が増えるクリスマスシーズンや新学期の前などの書き入れどきは1カ月で30万CFAフラン(約5万4000円)を稼げるという。

ちなみに世界銀行が発表する2018年の1人当たり国内総所得(GNI)によると、ベナンは870ドル(約9万4000円)。わかりやすくいえば、ベナン人の平均月収は地方も含め7800円程度(約4万3500CFAフラン。日本のおよそ50分の1)でしかない。仕立屋の稼ぎのすごさは一目瞭然だ。

「僕はいつか、憧れでもあるベナンの有名ファッションデザイナーのロロ・アンダッシュ(Lolo Andoche)やオベ・ネケズ(Aubert Nicaise)のようになりたい」。ビアウさんはこう夢を膨らませる。