新型コロナは世界中でDVを急増させる、「フランスは30%増えた」と国連が警鐘

日本でも大きな問題となっているDV。世界規模で取り組むべき課題だ(写真:Unsplash)

新型コロナウイルスで経済不安が高まったことを背景に、世界各地で家庭内暴力(DV)が急増している。国連ウィメンによると、ロックダウン(都市封鎖)が実施されてからDVの件数が25~30%増えた国もあるという。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のジリアン・トリッグス高等弁務官補佐官は4月20日、「女性や少女は家に閉じ込められている。加害者と距離を置くことも、外部にサポートを求めることもできない」と警鐘を鳴らした。

■ガソリンをかぶって死ぬ

国連ウィメンが4月9日に出した報告書によると、フランスでは3月17日のロックダウン以降、DVの件数が30%増えた。キプロス、シンガポール、アルゼンチンでも、DVを訴えるヘルプコールの件数がそれぞれ25~30%増加した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)もまた、ブラジル、中国、キルギス、 南アフリカ、英国などでDVやヘルプコールの件数が急増したと報告している。

イラク中南部の都市ナジャフでは4月の半ば、衝撃的な事件が起きた。夫の暴力に耐えかねた20歳の女性がガソリンをかぶり、火傷を負い、死亡したのだ。

この女性の母親はHRWに次のように語ったという。

「火は娘自身がつけたのか、娘の夫がつけたのかはわからない。ただ娘が死ぬ前に病室で会ったとき、娘は私にこう言った。『私は3分間燃え続けていた。そのあいだ夫はただ見ていただけだった』」

火は、娘の夫の父親によって消し止められた。夫と夫の父親は、警察に対して「事故による火傷だ」と言い張ったという。

また中国の山西省では、ロックダウンの最中に夫からの度重なる暴力を受けていた42歳の女性が自殺した。中国のデジタルメディア「SupChina」によると、この女性は3月9日に「きょうは本当に悪夢だ。心が壊れそう」というメッセージを友人に送信。その2時間後、アパートの11階から飛び降りた。

■新たに5億人が貧困に?

DVが増える最大の理由は、経済が大打撃を受けたことだ。国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)によれば、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の影響で世界人口の8%(5億人)が新たに貧困に陥るおそれがあるという。お金に困ることでストレスが高まり、人は暴力的になってしまう。

2つめの理由は、外部に助けを求めるのが困難なこと。 国連ウィメンのプムジル・マンボ・ヌクカ事務局長によると、普段でさえ、暴力を受けた女性のうち、自ら助けを求めることができるのは40%未満。新型コロナの影響で自宅待機が続くなか、DVを受ける女性が家からヘルプコールをかけたくてもそのタイミングは難しい。

国連人口基金(UNFPA)によると、ウクライナのDV全国ホットラインへの連絡件数は、ロックダウンが始まった最初の2週間で、その直前の2週間と比べて約26%増えた。

同国の国際女性の権利センター「ラストラーダウクライナ」のディレクターであるアロナ・クリブリアク氏は「ロックダウンの期間中は、ホットラインに電話をかけているのが見つかると、パートナーを刺激する可能性がある。フェイスブックのメッセンジャー、電子メール、ウェブサイトのメッセージ機能を使って連絡することを勧める」とアドバイスする。

■頼みの綱のシェルターも

DVが増える3つめの理由は、シェルターなど、被害を受けた女性が避難できる場所が閉鎖されたことだ。

「病院と警察は新型コロナの対処に忙しい。スタッフも不足している。地域の支援グループは麻痺しているか、資金が足りない。一部のDVシェルターはクローズし、開いているところも満員だ」とアントニオ・グレーテス国連事務総長は言う。

カザフスタンでは3月15日、政府が「緊急事態」を宣言し、不必要な施設は閉鎖するよう要請した。HRWによると、この要請を受けて、NGOが運営するDV被害者のための危機センターやシェルターのほとんどは受け入れを停止。現在はオンライン相談のみを行っている。

世界保健機関(WHO)の調査によれば、肉体的または性的虐待を経験した女性は中絶を経験する可能性が2倍高い。また中絶の経験はうつ病にかかる可能性をほぼ2倍にする。暴力を経験した女性は、暴力を経験していない女性と比べて3倍以上の割合で自殺を考え、4倍以上の割合で自殺を試みるという。