外国人に10万円はおかしい? 新型コロナで「移民をとりまく日本の課題」が明らかになった

新型コロナの影響で営業時間を大幅に短縮するインド料理屋(記事とは関係ありません)新型コロナの影響で営業時間を大幅に短縮するインド料理屋の入り口(記事とは関係ありません)

国際開発学会「人の移動と開発」研究部会は4月25日、オンラインセミナー「日本で暮らす移民の声を聞こう」を開催した。登壇した5人の移民は、新型コロナウイルスの影響で失業して在留資格を失う不安を抱える家族の事例や、集団生活のため「3密」を避けられない技能実習生の暮らしなどを報告した。また10万円の特別定額給付金について、納税しているにもかかわらず、「なぜ外国人がもらうのか」と批判があることも話題に。登壇者らは「同じ地域社会をつくる者同士とわかってほしい」と訴えた。

■一家の月収がたった2万円

滞日ネパール人のための情報提供ネットワークの代表を務める、ネパール出身のガンガ・栗原・ダンゴールさんが紹介したのは、ネパール人の5人家族の事例だ。新型コロナの影響により父が失業したことで、家族全員が在留資格を失うのではないかと、大きな不安を抱えている。

父(40代)は「技能(コック)」という在留資格を得て、3年前に来日。ネパール料理店で働いており、資格の期限である2020年12月に更新の手続きをする予定だった。ところが新型コロナのあおりを受け、失業。コックの仕事を続けていないと「技能」での在留資格は更新できない。だが、ほかのネパール料理店での仕事を探そうにも、新型コロナが流行するなかでは難しい。

母(40代)と子ども3人は、父と一緒に日本で暮らすため「家族滞在」という在留資格をもつ。そのため父がコックの仕事を得られない場合、家族も在留資格を失い、帰国しないといけない。中学生の息子は高校進学を目指して日本語などを勉強しているが、父が就職できなければ進学どころではなくなる。

一家は家計の危機にも直面している。新型コロナが流行する前の1カ月の世帯収入は、父の月収11万円と、母と2人の娘(20代)がホテルの清掃などで稼ぐアルバイト代27万円の合計38万円だった。この金額で家計をやりくりしながら、日本に来るためにかかった渡航費用を返済してきた。

だが新型コロナの余波をもろに受け、父だけでなく、母と娘の1人も失業。もう1人の娘も労働時間が短縮され、一家の収入はわずか2万円へと19分の1に落ち込んだ。父の職場は雇用保険に入っていないため、失業手当はもらえない。

収入の激減により一家で使う携帯電話は1台に。3人の子どもが通う夜間学校は休校しているが、この一家のネット環境は不十分なため、オンライン授業を受けられない。日本語力や学力の低下も、大きな懸念として子どもたちにのしかかる。

■外国人も税金を払っている

苦境にあえぐ移民にとって、日本政府が支給する10万円の特定定額給付金は大きな意味をもつ。だが「外国人に10万円払うのはおかしい」との批判の声が一部で上がった。

この批判に対してガンガさんは「私たちは日本人と同じように、健康保険や年金などの税金を払ってきた。労働力が足りない日本社会を手伝っている」とやりきれない思いを吐露する。

移民への不平等な扱いは、今に始まったことではない。新型コロナの以前から、国籍によって与えられる権利は異なっていた。たとえば同じ大学生であっても、日本国籍であれば自由にアルバイトできるのに対し、留学生は週に28時間までと法律は定める。国際協力論を専門とする上智大学の田中雅子教授は「外国籍の人のみに適応されるこうした制限は、日本人のあいだではほとんど知られていない」と話す。

コロナ以前からの問題もある。先のネパール人家族を例にとれば、父は月給11万円という低賃金で雇用されていた。また雇い主は、義務である雇用保険にも彼を入れていなかった。

今回のセミナーでモデレーターを務めた加藤丈太郎さん(早稲田大学博士課程)はこう解説する。

「移民は言語の壁もあり、法律や制度を十分に理解することが難しい。最低賃金や労働条件を知らないまま働き続けているケースも多い。それでも今までは、仲間同士で相談するなどして何とかしのいできた。しかしコロナでついに生活が破綻し、潜在的な問題が浮き彫りになった」

■移民にとって日本は良い国か

法務省の発表によると、在日外国人の数は2019年末時点で約293万人。この半数以上が仕事をしている。

日本は少子高齢化を背景に、2019年度からの5年間で34万人を目標に、在留資格を増やすなどして外国人労働者の受け入れを進めてきた。大手コンビニチェーンのローソンでは、東京23区内の従業員のおよそ35%が外国籍。日本社会はすでに外国人労働者なしでは成り立たないのが現状だ。

だが移民にとって日本は安心して暮らせる社会なのかどうかは疑わしい。厚生労働省の2019年の発表によると、外国人技能実習生の受け入れ先の7割以上で、労働時間や賃金不払いなどの労働基準法違反が認められた。

外国人住民に対する差別の実態調査(2017年、法務省)をみても、3割が「差別的な発言を受けたことがある」と回答。家を探した経験のある人の4割が「外国人であることを理由に入居を断られたことがある」という現状も明らかになった。

セミナーの登壇者のひとりで、NPO法人コリアNGOセンターの事務局長も務める金朋央さんによると、外国籍の人が利用できる給付金などの公的支援があっても、言葉の壁で利用できなかったり、窓口で断られたりするケースは、今回に限らず少なくないという。その理由として金さんは「日本の制度は基本的に『国民』、特に父・母・子という伝統的な『家族』を想定してつくられている。そのため外国人が制度を使おうとすると、現場もどう対応すればよいかわからないことが多い」と説明する。

新型コロナにより顕在化した、日本で暮らす移民の生活の脆弱性。セミナーの最後に田中教授は「大きな災害や紛争のあとにはNGOがたくさん生まれる」と述べ、この危機的状況が社会変革の可能性を秘めていることを示唆した。新型コロナは、当たり前の権利を与えられていない移民の立場を浮き彫りにすることで、国籍にかかわらず人々が平等に生きられる社会の実現を促しているのかもしれない。